抄録
イネにおける, 穂上位置による穎花の冷温感受性の差異に関連して, 小胞子初期に冷温処理をした材料および処理しない材料について, 開花期に穂上位置別の穎花について葯長および充実花粉数を調査した(第2~5表). 対照区および冷温処理区における葯長および充実花粉数の4者のいずれにおいても以下の傾向が見出された下位枝梗, 2次枝梗および同一1次枝梗上の下位の穎花は, それぞれ上位枝梗, 1次枝梗および同一1次枝梗上の上位の穎花にくらべて, 葯長は長く, 充実花粉数は多い. これら4者は, 穂上位置に関してお互いに(第6表), また小胞子初期に冷温処理をうけた場合の受精率に対して(第1~4図)高い相関を示した. これらの事実は, 既報において提出された仮説-花粉数が穂上位置による穎花の冷温感受性の差異の原因である-を支持するものである. 穂の上部の穎花は, 下部の穎花にくらべて対照区における充実花粉数が少いばかりでなく, 冷温処理による減少率も高い(第8表). 受精率が90%パーセント以上になるための充実花粉数の限界値は, 小胞子初期に冷温処理をうけた頴花の受精率に対する充実花粉数の回帰線を外挿することにより, 葯当たり640 (あるいは穎花当たり3,840)と計算された(第4図).