抄録
黄化徒長茎断片を用いた組織培養法により, バレイショ塊茎形成に影響する諸要因について検討を加えた. 1. 組織培養系における塊茎形成は培養温度と培地中の蔗糖濃度により大きな影響を受けた. 25℃では, 蔗糖濃度の増加に応じて塊茎形成率は増加したが, 30℃では, ほとんど塊茎形成は認められなかった. また, 10℃では蔗糖濃度にかかわらず, 塊茎が形成された. 2. サイトカイニン(ゼアチンリボシド)は低濃度蔗糖(2%)下では全く塊茎形成を引き起こさなかったが, 高濃度蔗糖(4%以上)下では塊茎形成促進作用を示した. また形成された塊茎の生重量は, ゼアチンリボシド添加により増大した. 3. アブシジン酸は側芽先端部のわずかな肥大を誘起したが, 休眠芽を有する塊茎の形成はひき起こさなかった. 4. ジベレリン酸は塊茎形成を強く阻害した. 5. CEPA及びACCは側芽の横地性を誘起したが, 塊茎形成は全く促進しなかった. 6. 塊茎形成率は黄化徒長茎を得るために用いた親いもの齢の増加に伴い増加した. 貯蔵4か月程の比較的若い親いもより得た茎断片の塊茎形成率はほぼ0であったが, 同14か月の老化塊茎より得た茎断片のそれは1.0に達した. これらの両茎断片中の内生生長物質活性について比較した結果, サイトカイニン及びアブシジン酸の活性には大きな差異は認められなかった. ジベレリン活性は老化塊茎より得た塊茎化の容易な茎断片のほうが明らかに低かった. 7. 硝酸態窒素は塊茎形成に影響をおよばさなかったが, アンモニア態窒素は塊茎形成を強く阻害した. 硝酸アンモニウムによる塊茎形成阻害作用は, 低濃度蔗糖(2%)下でのみ認められ, 高濃度蔗糖(4%以上)下では, その作用は全くみられなかった. 8. 以上の結果は, ジベレリンの減少が塊茎形成の必要条件であり, サイトカイニン及びアブシジン酸は塊茎形成の直接的な要因でほないことを示しているものと推察される. サイトカイニンは形成された塊茎の生育を促進し, アブシジン酸は塊茎形成に対し, 何らかの補助的な役割を担っているものと考えられる.