抄録
水稲葉身内の位置による珪酸体の分布密度の差異を軟X線写真撮影・画像解析法 (SIAM) により測定し, 機動細胞珪酸体形成の位置的差異と水分蒸散の関係について探ろうとした. 25℃と35℃, 相対湿度60%, 10,000ルックスの人工光下で育てた水稲品種'短銀坊主'の第3葉と第5葉, 水田栽培と1/5000aポットによる水稲それぞれ149品種 (第1表) の止葉とをホルマリン・酢酸・アルコール混合液で固定した. これを水洗・乾燥したのちM-1005NA型軟X線照射装置により照射し, ソフテックス写真を作製した. これを対話式画像解析システム (Photem IBAS) にかけて第5葉葉身の長さ4mm毎の面積, 珪酸体数, 珪酸体分布密度ならびに分布図などを測定・作製した. 止葉葉身の先端から1/3付近の写真をもとに中肋の左右10個所ずつの1mm2当りの珪酸体数をかぞえ, 両側間の分布密度を比較した. 長さ1cm当りの珪酸体数を維管束間毎にかぞえ, これと中肋ならびに大維管束との遠近による差異を比較した. (1) 珪酸体は葉の中央部から先端部にかけて密になり, 面積比で30%を占める先端部に全珪酸体数の50%が分布していた. 基部はこれと対照的にきわめて少なく先端部の1/10以下であった (第1図). (2) 中肋の左右両側の分布密度は日本稲と外国稲共に不均等のものが多く, とくに水田栽培のイネでは左右均等のものは調査品種数の8%にすぎなかった (第2表). (3) 大維管束間毎の区分間の珪酸体分布密度は, 中肋と葉縁の中間の区間が他よりも多い傾向を示した. 各大維管束区分内の分布密度は, 中肋と大維管束の両隣りが最も少なく, 二本の大維管束から最も離れた位置において最大の分布密度を示した (第2, 3図). (4) 短銀坊主の第3葉では機動細胞珪酸体と表皮表層部での高X線密度とが中肋の左右にわたり, まだら紋様を描いていた (第4図). 葉の上下左右および大維管束との位置関係により著しく異なる珪酸体の分布密度は, 葉内の水分蒸散が位置により甚しく不均一であることを示すものと考えた.