日本作物学会紀事
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水田における炭素循環に関する研究 : 第4報 田面水・土壌表層における有機物分解
山岸 徹山岸 順子林 哲司岡田 謙介玖村 敦彦
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1987 年 56 巻 2 号 p. 232-237

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抄録
水田における有機物分解量の推定は, 土壌有機物の動態を明らかにし, 地力の維持機構を解明するうえで, 重要である. 本報告は湛水期間中の水田において, 田面水と土壌表層の酸化層を含む系における有機物分解量を調べ, あわせてその変動の要因について検討を行なったもので, 得られた結果は次のとおりである. なお有機物分解量は, 田面水中の酸素消費速度の測定により求めた. 1. 有機物分解速度は, 測定開始(6月29日, 移植後約1月)以降季節の進みにともない下降した(第1図). 2. 有機物分解速度の Q10 は平均2.6で高温により顕著に促進された(第1表). 季節の進みにともなう有機物分解速度の低下と, 水温の低下の間には相関関係がみられた(第2図)が, この関係から求めた Q10 は4.8と高く, 水温以外の要因も分解速度の低下に関与していると考えられた. 3. 同一水田内でも場所によって有機物分解速度に差異があった. この差異は, そこに生育するソウ類の有機物生産量と関連している場合が多く, 有機物生産量の多い場所で, 有機物分解量も多いという傾向があった(第3図). 季節の進みにともなう有機物分解速度の低下と, ソウ類の総生産速度の低下の間には相関関係がみられた(第4図). 4. ソウ類の現存量の指標としてのクロロフィルaと, 消費者によるソウ類の摂取量の指標としてのフェオフィチンaについて, 土壌中の水平・垂直分布をみると, 両者の分布は密接な並行関係がみられた(第5図). このことから, ソウ類の有機物生産が多い場所で, 有機物分解の活発なことには, 消費者の摂食が活発であることが関与していると考えられた. 5. 以上より, 田面水・土壌表層における有機物分解速度は, 少なくとも, 水温とソウ類による有機物生産量の2つの要因によって, 影響を受けていると考えられた.
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