抄録
異なった来歴をもつ水稲(Oryza sativa L., 日本晴, IR30) と陸稲(同, タチミノリ, IRAT13), 各2品種ずつについて幼苗期における乾燥下生存能力を比較した. そして, これら品種間に生存能力の差があるのか, また生存能力と浸透調節能力とには関係があるのかどうかを明らかにしようとした. 播種後15日目から18日間, 植物体を自然光人工気象室で様々な段階に土壌水分状態を設定したポットで育てた. その結果, 土壌への給水量が少ない(第1図)はど処理18日目の夜明け前の葉身水ポテンシャルは低かった(第1表). そして, この時の葉身を膨潤させて求めた浸透ポテンシャル値も, ほぼ土壌乾燥の程度に応じて低下した(第2図). さらにこの低下の程度を湿潤区との差から浸透調節量として比べると, 陸稲に比べ水稲のほうが大きかった. 一方, 葉身の枯死率はこの夜明け前の葉身水ポテンシャルと密接な関係があり, 水ポテンシャルが低下するにつれて枯死率は増加した(第3図). そして, 葉身水ポテンシャルの低下にともなう枯死率の増大程度は水稲よりし陸稲で著しく(第4図), 乾物生産速度の低下も水稲に比べ陸稲の方がやや大きいという同様の傾向があった(第5図). しかし, 夜明け前の葉身の水ポテンシャルと浸透ポテンシャルとの関係を見ると, この関係には水稲と陸稲間で明確な差は認められなかった(第6図). すなわち, 水稲品種が陸稲品種よりも浸透調節が大きかったのは, 水稲品種が単に低い水ポテンシャルにさらされたためであり, 本質的な浸透調節能力の差にもとずくものではなかった. 以上のことから, 葉身の枯死率と乾物生産かろみた乾燥下における幼植物の生存能力は, 陸稲品種に比べ水稲品種の方が高いとみなされるにもかかわらず, 浸透調節能力には違いが認められないことから, 浸透調節は幼苗期のイネの干ばつ下生存能力の差には関与していないものと判断される.