日本作物学会紀事
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イネの光合成器官の徴細構造と機能に関する研究 : 第3報 イネの幼植物における葉緑体の光酸化による障害
遠山 益日比 佐知子
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1988 年 57 巻 1 号 p. 225-233

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抄録

葉緑体の光酸化に関する研究は, ある種の除草剤処理によって誘発されたカロチノイド欠損幼植物を用いて行なわれてきた. 本研究は, 正常なイネの幼植物の葉緑体が光酸化を受けるとき, 光合成色素量と微細構造との変化に注目して行なわれた. 16.2W/m2, 23℃で18日間育てたイネの幼植物を162W/m2,23℃に連続暴露すると, カロチノイド色素が正常に含まれていても, クロロフィル含有量は減少を続け, 5日後には当初の量の半分に減少した. しかし, カロチノイド含有量はこの強光暴露を通して有意な変化を示さなかった. 12hの明暗周期の下で, 同じイネの幼植物を162W/m2に暴露すると, 第1日目は光酸化によってクロロフィル量がかなり減少したが, 第2日目の減少量はわずかで, 第3日目ではクロロフィルの光酸化は認められなかった. このように, 明暗周期下におくと, イネの幼植物は強光暴露に対して次第に馴化するようにみえる. 他方, 光酸化による葉緑体の微細構造的障害が電子顕微鏡によって観察された. RuBPカルボキシラーゼの結晶の出現, チラコイド膜の膨潤, およびグラナチラコイド膜(GM)の障害とプラスト顆粒(PG)の生成が特徴的な変化であった. とくに, GMの構成分が分解遊離するためグラナ部の電子密度が異常に増大する. これらの物質は膜間を移動してPGに結集するようにみえ, そのため光酸化の進行とともにPGは数・量ともに増大すると思われる. 幼植物を朝から野外で太陽光にさらすと, GMは光酸化によって一時的に上記のような障害を受け, PGは増加する. しかし, 夜間にはその障害が癒えるようにみえた.

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