日本作物学会紀事
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ラッカセイの莢つき種子による"1本立ち出芽"の発生とその機構
前田 和美
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1990 年 59 巻 1 号 p. 100-106

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抄録
休眠が覚醒したラッカセイ品種Chicoの莢つき種子による圃場栽培で2粒莢から1個体しか出芽しない"1本立ち出芽"現象が多く発生した。この現象を種々の播種条件で再現させた結果, 莢果内で莢殻が薄くて裂開しやすい位置にあり, 基豆よりも休眠が弱い先豆が早く発芽し, 浅播 (2 cm) や覆土圧が小さい場合, 出芽する際に莢殻がその子葉や基豆を閉じ込めたまま地上に出て, 遅れて発芽 (根) した基豆を乾燥, 枯死させるために起こることがわかった。休眠性がやや強い大粒性品種のタチマサリやワセダイリュウの莢果が圃場で成熟後に自然出芽する場合にも同じ現象が起こることを確認したが, その場合には莢殻は地表下に留まっていた。品種Chicoでも自然の結実とほぼ同様に深さ5 cmで, 向軸側を上にして莢果を水平に播種し, 覆土後, 加圧すると"1本立ち出芽"が起こったが, 莢殻は地中で元の播種位置に留まっていた。これらの結果から, ラッカセイには自然条件で, 莢殻の組織的構造と1莢果内での種子間の休眠の強さの差異によって先豆を優先的に発芽, そして出芽させる機構があり, 莢つき種子の浅播や覆土圧が不足する場合に"1本立ち出芽"が多発すると考えられる。この機構は, 母株の周囲の限られた範囲内に地下結実した多数の種子が同時出芽することにより生ずる種内個体間競争の激化を自己調節する機構であるとも考えられる。
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