抄録
標本調査における標本数は, 調査対象形質の変動係数と目標精度から算出することができる。しかし, 水稲の量的諸形質の変動係数は十分に明らかにされていない。そこで, 水稲圃場試験で標本調査による各種調査を行う場合に必要な標本数を明らかにするために, 最高分げつ期, 穂揃期および成熟期における量的諸形質の変動係数を3カ年にわたり種々の栽培条件下で調査した。なお, 調査の対象としたのは, 栽培試験で一般的な1株植付け本数を一定とした手植え水稲である。量的諸形質の変動係数の, 年次, 圃場, 作期, 品種, 植付け条方向の違いによる差は, 栽培管理がよほど粗雑でない限り小さく, これらの栽培条件が異なっていても標本数に大差はないと判断された。ただし, 変動係数の, 栽植密度の違いによる差は無視できない大きさであった。そこで, 標準的な栽植密度で栽培した水稲について, 最高分げつ期, 穂揃期, 成熟期の生育時期別に, 量的諸形質の母変動係数の99%信頼区間の上限値を調査結果から推定し, 解析に用いる変動係数とした。この値を用いて, 目標精度を許容誤差率5%・信頼水準68%, 許容誤差率10%・信頼水準68%, 許容誤差率5%・信頼水準90%, 許容誤差率10%・信頼水準90%, 許容誤差率5%・信頼水準95%, および許容誤差率10%・信頼水準95%とした六つの場合について, 目標精度を達成するのに必要な標本数を算出した。この標本数をランダム抽出して調査すれば, それぞれの場合における目標精度を理論的に満たした標本平均値を得ることができる。