抄録
水稲品種日本晴を用いて, 止葉と比較しつつ穂の蒸散, 光合成の特徴を明らかにすることを試みた。穂の蒸散速度は出穂日が最大で, 明所と暗所との拡散伝導度の相違は著しく小さかった。また明所と暗所の穂の蒸散速度は共に飽差の増加に伴って直線的に増加し, 両直線の傾きは等しかった。これに対して, 止葉の暗所の拡散伝導度は明所の約10分の1であり, 飽差の増加に伴う暗所の止葉の蒸散速度の傾きは明所の約10分の1であった。なお, 暗所の止葉の拡散伝導度は穂の約2分の1であった。穂のみかけの光合成速度, 暗呼吸速度はそれぞれ出穂日後5日, 10~15日に最大に達し, 総光合成速度は最大約6 mgdm-2hr-1で, 止葉の約6分の1であった。暗呼吸速度はみがけの光合成速度とほぼ等しく, 止葉に比較して高かった。飽差の増加に伴って, 止葉では拡散伝導度, 光合成速度が減少するのに対して, 穂では両者ともに変化せず飽差の影響をうけなかった。以上の結果と穂の形態についての従来の研究結果とから, 穂の蒸散, 光合成には気孔がほとんど関与していないことが明らかになった。穂軸及び枝梗と籾とに分けて測定した光合成速度と明暗の蒸散速度とから, この穂の特徴は籾の蒸散, 光合成の性質によってもたらされたことを認めた。