鉢栽培した登熟期の水稲につき, 夜温の高低, 穂首よりアミノ酸類の供給, 穂部のみを高温におくなどの処理で米粒の肥大抑制を行った。1. 全登熟期を通して, 生籾体積と生籾粒重との間には密接な相関関係が成立 (r=0.968**) し, さらに, 穂揃後17日頃の生籾重と収穫時の乾燥粒重との間にも同様の関係を認めた (r=0.884**)。以上より, 成熟粒軽重の傾向は登熟前半で決まるので, 登熟前半の粒重決定にあずかる要因の解析に力点をおいた。2. 高温あるいは低夜温処理は共に穂揃後29日までの粒重増加を抑制した。この抑制の原因は, 光合成量および呼吸量の差からは説明できない。また, 粒重増加が抑制された区では, 稈・葉鞘中に移動可能な炭水化物がより多く蓄積された。したがって穂に分配される炭水化物の不足でもって, 粒重増加の差を説明できない。温度が穂部の炭水化物収容能力に影響を与えるとの想定にたって, 穂部のみを高温条件におくと, 無処理穂よりも粒重は軽くなった。アミノ酸類を穂首より与えた処理は水を与えたものに比しすべて粒重が軽くなったが, 統計的に有意差を認めたのは, アスパラギン, KNO3供給であった。3. 上述した処理で, 玄米中のアンモニア濃度と粒重との関係を見ると, 粒重増加の抑制程度に応じてアンモニア濃度が増加した。さらに玄米中のアンモニア濃度と糖濃度との間に高い正の相関のある (r=0.937**) ことより, 生理毒であるアンモニアがデンプン合成に抑制的に作用する可能性, ならびに玄米のアンモニア濃度は, アミノ酸類合計値と高い正の相関を持つことより, 登熟不良は窒素代謝の不調に影響されるとの2点を推論した。