日本作物学会紀事
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イネの胚発生に伴う胚盤上皮細胞の発達, 化学固定法と凍結置換法による研究
鈴木 克己谷口 武前田 英三
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1991 年 60 巻 1 号 p. 161-173

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抄録
開花後4日のイネ胚では,胚の表面全体がクチクラ層で覆われていた. 5日になると胚盤背軸側のクチクラ層だけが,一部消失し断続的になった. 胚盤背軸側のクチクラ層は,7日で完全に消失した. このクチクラ層の消失により,胚盤上皮細胞となる表皮細胞と,その他の表皮細胞とが明らかに区別された. したがって胚盤上皮細胞は開花後5日頃から,特有の形態に変化し始める. この時期の胚盤上皮細胞は,細胞質に富み垂層分裂を行う. この細胞の胚乳組織に接する面の細胞壁には,小さな内向突起がしばしば観察された. 開花後10日で垂層分裂が終わり,胚盤上皮細胞は次第に外表面に対して垂直の方向に生長し細長い形となった. 9日頃から12日頃にかけて,胚盤上皮細胞の表面に対して垂直な細胞壁が,表面から約半分弱のところまで肥厚した. この細胞壁の肥厚は,胚盤上皮細胞特有の性質であった. 細胞内部では脂質粒とアミロプラストが増加し,液胞はタンパク顆粒に変化した. 胚の休眠期に近づくにつれて,脂質粒は細胞壁近くに分布するようになった. 胚盤上皮細胞を凍結置換法によっても観察した. 化学固定法に比べ膜系が滑らかで, ミトコンドリアやプラスチドの内部の電子密度が高かった. この方法でも細胞壁の内向突起や肥厚も観察された.
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