抄録
既報においで, 収量, 乾物生産特性の比較を行った早生, 中生水稲それぞれ2品種について, 測定した個体群構造, 吸光係数, 個葉光合成特性をもとに, 個体群光合成速度(Pg)のシミュレーションモデルを作成した. この個体群光合成モデルを用いて, 各品種の幼穂発育期, 登熟初期の光-Pg関係, および全天日射の日量(JTD)と個体群光合成の日量(Pgday)との関係を検討した. その結果, いずれの品種, 生育時期においても, 散乱光比率が小さくなるのに伴って光-Pg関係の傾きは小さくなった. また, JTDが大きくなるのに従って散乱光比率は小さくなるので, JTDが15MJ・m-2以上になるとPgdayの増加割合は小さくなった. このことから, 光条件では, 散乱光比率がPgdayすなわち乾物生産力の上限を規定していることがわかった. また, 1989年のJTDの推移を基に, 本モデルを用いて推定した個体群生長速度(CGR)の品種間の相対的関係は実測値とよく一致した. 個体群構造, 受光態勢, 個葉光合成特性を早生, 中生それぞれ2品種間で交換して個体群光合成速度を計算することにより, 乾物生産に品種間差の生じた要因を解析した. 南京11号はアキヒカリに比べ幼穂発育期には葉面積指数が大きいことによりCGRが高く, 登熟初期には個葉光合成速度が小さいことにより両品種間のCGRの相違が小さくなること;密陽23号は日本晴に比べ, 幼穂発育期には個葉の光-光合成関係の初期勾配が大きいことによりCGRが高く, 登熟初期には良好な受光態勢と, これを高いPgに結びつけられる個体群構造をもつことによりCGRが著しく高いことが明らかとなった.