抄録
ジベレリン生合成抑制剤のイナベンフィド(商品名:セリタード)処理が水稲根群の発育に及ぼす影響を, 1989年および1990年の両年にわたって検討した. 1989年は水田で生育させた品種コシヒカリの主茎について, 1990年にはポットで生育させた品種レイホウを用い, 株当りあるいは1茎当りについて調査を行った. イナベンフィド処理によって, 草丈および稈長は著しく短くなり, 収量は増加した. 収量構成要素についてみると, 1穂籾数は減少したが, m2当り穂数, 登熟歩合および千粒重は増加した. 主茎では, イナベンフィド処理によって総冠根数が増加したが, いじけ根数も増加し, その結果, 伸長根数は減少傾向を示した. ただし, 1株当りの分枝根を含む総根長はイナベンフィド処理によって著しく増加した. また, 分枝根形成に及ぼすイナベンフィドの影響を検討した結果, 冠根長に対する分枝根長の比は高くなったが, 総根長に対する乾根重の比は低くなり, 分枝根の発達は促進される傾向が認められた. さらに, イナベンフィド処理した水稲体では総根長に対する地上部乾物重の比が高くなることが明らかとなった. 以上の結果, イナベンフィドは茎数および根群の形成, とくに分枝根の発達に影響を及ぼし, 両者の相乗効果によって1株当り総根長が増加したと考えられた. また, このことによって, イナベンフィド処理を受けた水稲体は根の比率が相対的に高い, 高収量の実現に好適な構造となっているとみられた.