抄録
塩分濃度の異なる塩水かんがいが六倍体ライコムギの乾物生産と無機イオンの体内分布に及ぼす影響を解析し, それによって耐塩性機構を検討する目的で, 遺伝的背景の異なる2品種, Welsh及びCurrency, を用いてガラス室内でポット栽培による比較試験を行った. 塩水かんがい処理は, ポットに移植後3週間目の幼苗期から成熟期まで2~4日おきに1個体あたリ200ml の塩化ナ卜リウム水溶液を0, 25, 及び50mMの濃度区に分けて行った. その結果, 穀実収量の比較によりCurrencyの方がWelshよりも耐塩性が大であることが示唆された. 塩水処理により, 両品種とも茎葉の乾物重が低下した. 塩水処理による穎の乾物重の低下は, Welshの方がCurrencyより著しかったが, 根の乾物重の低下はCurrencyの方が大であった. 植物体各器官のナトリウム及び塩素の濃度は, 一般に処理に用いた塩水の濃度が高くなるほど上昇した. この傾向は, 根以外のすべての器官でWelshの方がCurrencyよりも著しかった. 根におけるナトリウム濃度は, 各処理区で品種間差は認められなかったが, 塩素濃度はCurrencyの方が高かった. このことから, 六倍体ライコムギにおいては各器官のナトリウム及び塩素の蓄積が耐塩性に関与し, とくに根が地上部へのこれらイオンの輸送調整に関する重要な役割を果していることが示唆された. カリウム, カルシウム及びマグネシウムの濃度は, 品種間及び器官間で一定の傾向が見られず, 耐塩性に関するこれら3無機イオンの役割は明らかでなかった.