日本作物学会紀事
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イネ科作物の節根軸における保護組織の向頂的木質化の進行に及ぼす土壌水分条件の影響
Teresita O. GALAMAY山内 章野々山 利博河野 恭広
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1992 年 61 巻 3 号 p. 511-517

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抄録
異なる土壌水分条件(湛水区, 適湿区, 乾燥区)の, 節根軸内の保護組織(下皮, 皮層内厚壁組織, 内皮)の発達に及ぼす影響を解剖学的に調べた. 根箱で41日間生育させたハ卜ムギ(耐湿性大, 耐早性小), ヒエ(耐湿性, 耐早性とも大), トウジンビエ(耐湿性小, 耐早性大)の第1節根軸の基部から2cm毎の横断切片を作製し, 光学および蛍光顕微鏡観察を行った. ハトムギでは, 湛水, 適湿, 乾燥条件になるに従って, 下皮および皮層内厚壁組織の向頂的な木質化が促進される傾向を示した. また, 乾燥条件による地上部乾物重の減少はあまり大きくなかった(対適湿区比56%). 一方ヒエでは, 乾燥, 適湿, 湛水条件になるに従って下皮での木質化がやや促進され, また, 皮層内厚壁組織では湛水, 乾燥両条件下で促進される傾向を認めた. 地上部乾物重は湛水, 乾燥区でそれぞれ適湿区の95%, 70%で, 他種に比べて明らかに減少は少なかった. これらに対し, トウジンビエにおいては, 湛水区では木質化は内皮のみに限られ, 皮層内厚壁組織は分化そのものが抑制された. 一方乾燥区では, 3組織ともに向頂的木質化が顕著に促進された. それに伴い, 地上部乾物重は湛水区で大きく減少した(対適湿区比18%)のに対し, 乾燥区では減少割合は比較的小さかった(同64%). これらの結果は, 節根軸内のこれら3保護組織, と くに皮層内厚壁組織における向頂的木質化の進行が, その種にとって不適な土壌水分条件下での個体の発育に影響し, その作物の耐湿性・耐早性を規定していることを示唆している.
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