日本作物学会紀事
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イネ球状胚の微細構造, とくに表皮系の分化に関連して
鈴木 克己三宅 博谷口 武前田 英三
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1993 年 62 巻 1 号 p. 116-125

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抄録

本研究では, 開花後42時間から72時間までのイネ胚の細胞について観察を行った. 胚細胞の分裂方向が不規則になり, 胚の体積が増加するにつれて, イネ胚細胞内では細胞質の割合が増加し球形の胚となった. この球状胚は, 球形を示す胚固有部分と胚柄部分から構成されていた. 開花後48時間から66時間の球状胚の胚固有部分は, 豊富な細胞質を持った分裂活性の高い細胞で構成されていた. 一方, 胚柄の細胞は比較的大きな液胞を持ち大型であった. 開花後66時間までの胚表面にはI2KI-H2SO4-AgP方法に反応する物質は存在しなかった. 従って球状胚の表面には, クチクラ層が形成されていないと思われた. 開花後72時間になると, クチクラ層が腹側上部から形成され始め, しだいに球状胚全体を覆うようになった. 同時に胚内部では微細構造変化を伴う組織分化が始まった. これらの結果からクチクラ層の形成は, 胚の器官形成を誘導する最初の細胞学的兆候であると考えた.

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