日本作物学会紀事
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62 巻, 1 号
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  • 白岩 立彦, 橋川 潮
    1993 年62 巻1 号 p. 1-8
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    ダイズ個体群における捕捉日射エネルギーの乾物への変換効率 (EPAR) の安定性および変動要因を検討した. 1989年に品種エンレイを異なる播種期, 個体密度および畦幅で, 1990年に品種タマホマレを異なる個体密度で, それぞれ圃場栽培した. ダイズ個体群による光合成有効放射 (PAR) の捕捉量と地上部全乾物重の推移を測定したところ, 両者の関係は密接であった. しかしそれは, 生育時期を問わず直線的であるとは単純にはいえず, 両者の比であるEPARは生育初期には増加し, その後やや安定的に推移した後, 子実肥大始 (R5) を過ぎる頃から低下した. このような推移には, 第一に個体群光合成能力の変化が関与すると思われるが, このことに加えて, 生育初期のEPAR増加過程には葉面積増加による光飽和葉の減少が, また生育後期におけるEPAR低下過程には維持呼吸量増大の影響が, それぞれ関与することが示唆された. 安定期におけるEPARは, ほとんどの処理区で2.1~2.3gMJ-1 (1989年) あるいは2.4~2.5gMJ-1 (1990年) の範囲にあり, 播種期, 個体密度あるいは畦幅によっては大きくは変動しないものと思われた. EPARの若干の変動をもたらす要因を検討したところ, EPARは, 葉面積当りN含量とは無相関だったが, 群落吸光係数 (KPAR) との相関は比較的明瞭 (r=0.651) だった.
  • 小葉田 亨, 塩野 健児, 武井 利彰, 勝部 淳史, 今木 正
    1993 年62 巻1 号 p. 9-16
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    湛水条件下における水稲葉身水ポテンシャル (Ψ1) の日中の低下しやすさが, 生育時期によって変化するかどうかを明らかにするために, 生育時期ごとに大気の蒸発要求とΨ1との関係を調べ比較した. 蒸発要求は試作した直径11cmのろ紙蒸発計で測定した蒸発速度 (E0) によって表した. 3年間にわたり, 島根県平坦部にある水田を中心に, 近接地域内にある中山間部水田も一部用いて合計3品種のイネを栽培し, 生育時期毎にE0と最上位完全展開葉のΨ1の日変化を同時測定した. その結果, 全ての場合を通じて, Ψ1はE0を変数とする一次直線でよく表せた. すなわち, 水田ではΨ1は蒸発要求に対してきわめて敏感に反応して変化していると見なせる. そこで, この直線の傾きを蒸発要求に対する葉身水ポテンシャルの低下しやすさの程度とみなして, 生育にともなう推移を比較すると品種, 年度, 場所にかかわらず多くの場合共通の変化がみられた. すなわち, 田植後穎花分化終期ころまでの傾きの緩やかな減少と, それ以降の登熟期に入ってからの傾きの増加である. そして, 登熟中期に傾きが急になったものは, 完熟期近くになりふたたび傾きが緩やかになった. ただし, その程度は年度間, 地域間で異なった. すなわち, 最も明らかな違いは, 平坦部で慣行栽培したイネでは登熟中期に傾きがきわめて大きくなったのに比較して, 中山間部で慣行栽培あるいは平坦部で遅植えした場合にみられた登熟期にも傾きがあまり低下せず保たれる傾向である. また, 生育にともなう日最低Ψ1の推移は, これらE0とΨ1との直線の傾きの推移ときわめて類似していたことから, 本報告では日最低Ψ1もイネ自体の生育にともなう変化を反映しているとみなされた. 以上から, 水田における湛水状態のイネのΨ1は大気の蒸発要求にきわめて強く支配されて変動すること, しかし, その影響される程度は生育時期にともない変化し, 特に登熟期において栽培条件の違いが強く反映されると結論された.
  • 小葉田 亨, 塩野 健児, 武井 利彰, 勝部 淳史, 宇高 信一郎, 今木 正
    1993 年62 巻1 号 p. 17-26
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水田においてイネの最上位完全展開葉の葉身水ポンテシャル (Ψ1) は, ろ紙蒸発速度 (E0) の増加にともない低下すること, その低下程度は生育にともない変化し, 特に登熟期において年度, 栽培地間で大きな違いが生じることが観察された. そこで, 本報告ではΨ1の低下しやすさを表すΨ1とE0との関係直線の傾き (S) が異なった年度間, 地域間のイネの生育・収量に違いがあるのか, あるいは生育, 収量とΨ1の低下しやすさとにはなんらかの関係があるのかどうかを明らかにしようとした. ここでは, 3年間, 2地域の栽培の中で共通に用いられた水稲品種日本晴について検討した. 玄米収量は, 松江水田において1987から1989年の3年間の慣行栽培で平均561g/m2, 遅植を含めて589g/m2, 赤名水田では1988と1989年の2年間の慣行栽培で平均624g/m2であった. 茎数などの生育と共に, 生育期間中の投下日射量当りあるいは日照時間当りの玄米収量 (収量生産効率, UEG) に年度, 地域間差が見られた. 収量決定に重要とみなされる出穂をはさむ前後30日間のSの平均値 (S^^-) とUEGとの間には正の密接な直線関係が有った. また, 玄米収量は着生穎花数と密接な正の関係があったので, 本報告で対象としたイネでは穎花数が収量にとって重要であると見なされた. そこで, 出穂前30日間の平均Sと出穂期までの日射量または日照時間当りの穎花着生数 (穎花生産効率, EN) との関係を見ると一部例外があるものの正の関係があった. また, 登熟中期のS (S20) はS^^-の違いをもたらす大きな要因であるために, S^^-と同様UEG, ENと高い正の関係があり, 収量性の指標として使える可能性があった. 以上から, 生育期全般にわたり高い蒸発要求のもとで葉身水ポテンシャルが低下しにくいイネは, 特に穎花の生産能率が高いために収量性が高いと見なされた.
  • 高橋 清, 大竹 博行
    1993 年62 巻1 号 p. 27-32
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    分げつが鉛直方向へ姿勢の抑制を行う仕組みを解析するために, 水稲品種ササニシキを用いて分げつ茎の各節の重力屈性反応の大きさについて検討を行った. 第1実験. 1/5000aワグネルポットにイネを1個体ずつ育て, 11葉期と出穂後10日目に地上部を採取し, 全分げつの各節位別の屈曲角度を調査した. 一本の茎の中で最大の屈曲角度を示したのは, 伸長茎部と非伸長茎部の境に位置する節 (0位節) の葉枕であった. 次いで, その1節下 (-1), 1節上 (+1), 2節下 (-2) の順であった. 1次分げつ茎では, 下位節に発生する分げつで屈曲角度が大きく, 上位分げつで小さかった. また, 屈曲する節数も下位分げつで多かった. 下位節からでる1次分げつは, 新しい分げつの出現と生長によって, より外側に押されたものと推定される. 第2実験. 3.5-4.0葉期の苗を水田に移植した. 栽植密度は, 30×30cmと30×15cmの2段階, 1株植え付け本数は1本と5本の2段階とした. 出穂後40日目に地上部を採取し, 全分げつの各節の屈曲角度を調査した. 1本の茎の中で屈曲角度が最大であったのは0位節であった. 次いで-1, +1, -2位節の順となり, 第1実験の孤立個体の結果と全く同一の傾向が得られた. これらの結果は, 水稲ササニシキでは特定の部位 (0位節とその付近の葉枕) が, 分げつ茎の鉛直方向への姿勢の制御において重要な働きをしていることを示唆している.
  • 楠田 宰
    1993 年62 巻1 号 p. 33-40
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲の乾物重は, 生育診断や生育予測のために重要な形質である. しかし, 乾物重の調査には多くの時間を要するためにその実施が困難となってきている. そこで, 簡便でかつ一定水準以上の信頼性を確保した乾物重の効率的な調査法を新たに確立する必要がある. 各農業試験研究機関においても乾物重調査の省力化が図られているが, 精度については経験的に問題がないと判断されている場合が多く, 統計的検証を行った例はほとんど見られない. 本報では, まず, 乾物重調査に重複抽出による比推定法を適用した場合の標本数, 精度, 所要時間を調査・解析して, その有効性を精度の確保と省力性の両面から検討した. その結果, 乾物重調査に, 生体重を補助量とする重複抽出による比推定法を適用すると, 標本調査の原則である単純推定法と同等の精度の推定値を得るための所要時間が短縮され, 調査の効率化に有効と判断された. 茎数・穂数を立毛調査して補助量とする場合は, 省力化の程度は小さかったが, 圃場から抜取る株数が単純推定法に比べて少ないという利点があった. 次に, 試験研究機関の生育調査は20株程度について行われる場合が多いので, 20株について調査した生体重や茎数・穂数のデータを活用した各種の乾物重調査法の精度と所要時間を調査・解析した. 精度と所要時間の両面から判断した効率的な調査法は, 20株を「対角」抽出して補助量を調査し, その中から2次標本としてランダム抽出した所定の株数について乾物重を調査して, 比推定する方法であった.
  • 津田 誠, 高見 晋一
    1993 年62 巻1 号 p. 41-46
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    土壌の乾燥に伴う穂の水ポテンシャルの変化が穂の発育段階に依存するかどうかを調べた. 水稲品種2品種, 農林20号および密陽23号をポットに栽培し, 異なる穂の発育段階に土壌乾燥処理を与え, 穂と展開が完了した葉身の水ポテンシャルの推移を測定した. 処理を与えた発育段階は1986年の農林20号を用いた実験では穎花分化期, 1987年の密陽23号では幼穂分化期, 減数分裂期および登熟初期であった. ポットは1/5000aの大きさを使用し, 1ポット当り20個体を栽植した. 植物体は分げつを切除して主稈のみとし, 処理開始まで湛水栽培した. その結果, 穂の水ポテンシャルは, 出穂後には葉身と同様に日変化するのに対して, 出穂前には日変化はみられないこと, そして両時期とも土壌の乾燥にともない低下することがわかった. さらに, 同じ出穂前でも減数分裂期には幼穂分化期より幼穂の水ポテンシャルが著しく高く維持されることが観察された. 植物体の任意の器官あるいは組織の水ポテンシャルは, 蒸散と生長の有無に左右される. 従って, 出穂に伴う穂の水ポテンシャルの変化は蒸散の影響によるものと考えられる. また, 水ストレスの進行に伴って幼穂の水ポテンシャルが土壌のそれに近づいたのは生長が抑制されたためと考えられる. 一方, 減数分裂期には幼穂に多量の貯留水が存在し, かつ, 幼穂の透水性が低くなるため水ポテンシャルが高く維持されるものと考えられた.
  • 杉本 秀樹, 佐藤 亨
    1993 年62 巻1 号 p. 47-52
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    本研究は, 窒素追肥がダイズにおける過湿障害の軽減に有効か否かを知るために行った. まず, 水田転換畑でダイズ品種タマホマレを栽培し, 花芽分化期に畦間に5~8cmの深さに水を溜めて8~11日間過湿処理を行い, 過湿処理終了後に硫安を窒素成分で12gm-2追肥した. 過湿・無追肥区における子実収量は無過湿・無追肥区に対して20%低下したが, 窒素追肥を行った過湿・追肥区では, 6%の低下に留まった. これは, 莢数減少の度合が軽減されたことに起因した. 次に, 窒素追肥によって莢数減少の度合が軽減されるメカニズムについて調べた. 水田土壌を充填したポットにタマホマレを栽培し, 花芽分化期に地下水位が5~7cmとなるようにポットを水槽につけた湿潤区, 地上水位が2~3cmとなるようにした湛水区, ならびに適宜灌水した適湿区を設け, 7日間の過湿処理終了後に, 各区のポットの半数に硫安をポット当り5g追肥した. 湿潤・無追肥区と湛水・無追肥区では, 葉身窒素含有率の減少が光合成速度の顕著な低下を招いたが, 窒素追肥をした湿潤・追肥区と湛水・追肥区では, 全窒素同化量が増大し, 葉身窒素含有率が上昇して光合成速度が増大した. 光合成速度の増大 (光合成産物の増大) は, 花器脱落の抑制をもたらし, その結果莢数減少の度合が軽減されたものと考えられた. 以上のように, 花芽分化期に過湿処理をしたダイズに窒素追肥を行ったところ, 子実収量の減少が軽減されたが, これは光合成速度増大による花器脱落の抑制に起因したと考えられた.
  • 渡部 富男
    1993 年62 巻1 号 p. 53-59
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    深水灌漑法の必要湛水深を浅くし, その実用性を高めるため, 倒伏軽減剤 (イナベンフィド, パクロブトラゾール, ウニコナゾール) 及びいもち病防除剤IBP処理が幼穂地上高に与える影響を検討すると共に, 障害不稔に及ぼす影響を検討した. 1. 冷温感受性期の幼穂地上高はいずれの薬剤処理でも短縮され, その短縮程度はイナベンフィド粒剤>パクロブトラゾール粒剤>IBP粒剤>ウニコナゾール粒剤の順であった. このような幼穂地上高の短縮は, いずれも穂首節間とその直下の節間長の短縮によった. 2. 幼穂地上高の短縮により, 稚苗移植の初星は, 冷温感受性期にあたる穎花の80%を深水灌漑法で保温するのに必要な湛水深は, 無処理区の22.5cmに比べ, 最も短縮の大きいイナベンフィド粒剤で約6cm, パクロブトラゾール粒剤で約4.5cm, IBP粒剤で約3.5cm, ウニコナゾール粒剤で約3cm浅くすることが可能であった. 3. ポット栽培したイネを用いての15℃一定, 4日間冷温処理による障害不稔発生に与える影響はIBP粒剤を除き認められなかった.
  • 津田 誠, 山根 祐治, 高見 晋一
    1993 年62 巻1 号 p. 60-65
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    幼穂発育初期のイネに水ストレスを与えると個体当り穂重は, 積算水ストレス (水ストレスの強さと期間の総合評価値) に比例して低下する. 一方, 水ストレスによる減収量は, 水ストレスのない条件下での収量が大きいほど大である. 従って, 積算水ストレスに伴う個体当り穂重の低下も, 湛水条件下の個体当り穂重が大きいほど大であると考えられた. そこでこのことを確かめるために, 大きさの異なるポットに施肥量を変えて水稲 (コシヒカリ) および陸稲 (戦捷) を栽培し, ニ次枝梗分化期と出穂開花期に土壌水分ストレスを与えた. その結果, 乾燥経過の違いにも関わらず, 出穂開花期の水ストレスによる個体当り穂重の低下は, 幼穂発育初期と同様積算水ストレスに比例的であった. また, この比例係数は湛水区の個体当り穂重に依存することが見いだされた. すなわち, 水ストレスを与えた植物体の個体当り穂重G (g plant-1) と積算水ストレスCWS (MPa・day) との間には, 湛水条件下での個体当り穂重をG0 (g plant-1), 水ストレス感受性をK (MPa-1day-1) とすれば, 次の関係が成立することが分かった. G=G0 (1-K・CWS) Kは一般には栽培法と品種によって変わるとみられるが, 本実験の範囲では前者の影響が大きかった.
  • 秋田 重誠, 李 〓雨, 石川 哲也, 李 茜
    1993 年62 巻1 号 p. 66-72
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲個体群のエネルギー収支に大きな影響を及ぼす個体の暗呼吸速度の変動に関与する諸要因を解明するために, 生育後期, すなわち, 出穂期前後から成熟期にかけて圃場で生育した水稲多収品種・系統の個体当り夜間の平均暗呼吸速度 (Rs-n) および個体を構成する諸器官の乾物重当り呼吸速度 (Rs) を測定し, 以下の結果を得た. Rs-nは生育時期 (PDS) により大きく変動し, 出穂期前後に最も高い値を示し, 以後徐々に低下した. また, 出穂期に近い材料のみについてRs-nと窒素濃度, 採取した日の日射量の関係を検討した結果, 生育後期においては基質と考えられる糖濃度に影響を及ぼす日射量とRsの相関は低く, 窒素濃度との相関は高かった. 上記3要因, すなわち, 生育時期, 窒素濃度, 日射量のRsの変動に対する寄与度を検討するために3要因を説明変数として重回帰分析を行ったところ, Rsの変動は主としてこれら3要因によっていることが明らかとなった (重回帰係数=0.831). 従って, 上記3要因以外の品種固有の要因によるRsへの影響は小さいと考えられ, 暗呼吸速度の遺伝的制御の可能性は大きくないと考えられた. また, 葉の糖濃度には供試した半矮性インド型品種と日本型品種の間で大きな差が見られたにもかかわらず, 葉のRsには両者のグループの間に違いが見られなかった. さらに, 出穂期の窒素当り呼吸速度 (Rs N-1) は生理的令の若い穂や稈で高く, すでに成熟している葉で最も低い値を示した. しかし, 成熟期に向かって葉のRs N-1は増大する一方, 穂などでは低下し成熟期においてはいずれの器官のRs N-1もほぼ同じ値を示した. 成熟した器官でRs N-1が大きくなる原因は窒素化合物の再利用のためのエネルギー消費によると推察された.
  • 秋田 重誠, 石川 哲也, 李 雨, 片山 勝之
    1993 年62 巻1 号 p. 73-80
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    圃場条件下で生育した生育後期の水稲の個体より分離した諸器官, および, それらの器官をさらに切断した生理的令の異なる組織の呼吸速度の制御機構を把握するための試験を行い以下の結果を得た. 個体より分離した諸器官の暗黒にして15時間後の呼吸速度は穂や稈などの伸長中の組織を持つ器官では着生したままの器官の呼吸速度より低い値を示し, 葉のように成熟した光合成器官では逆に着生したものより高い値を示した. この際, 切断葉においては糖含量, 可溶性の窒素含量が高く, 他の器官ではその逆の傾向を示した. 一方, 種々の器官から切断した成熟組織では暗呼吸速度は発育途中の若い組織よりはるかに低いうえ, 夕方測定開始後から真夜中にかけて一時低下した後, 翌朝には再び高まり ("morning rise"以下MRと略記) それ以後は低下した. これに対し, 切断した若い組織では, 暗黒下に置き, 測定を開始した直後は非常に高い値を示すが, 時間と共にほぼ直線的に低下し, MRを示さなかった. 稲の若い組織の暗呼吸速度は基本的には基質である糖の濃度および窒素濃度により規定され, Rsと基質濃度, 窒素含量の関係はMichaelis-Menten式により近似可能と与えられたが, 組織が古い場合にはこの式によって近似することは不可能であった. この原因としては組織中に存在する糖あるいは窒素がすべて呼吸反応に関与しているのではなく, 生理的令が進むにつれ, 直接呼吸に関与しない部分が多くなることおよび老化の進行によりタンパク質の分解を伴うことなどによると推察された.
  • 大竹 博行, 高橋 清
    1993 年62 巻1 号 p. 81-87
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    イネの伸長茎を人為的に横転すると, 通常3個の葉枕の屈曲によって鉛直方向に起きあがるが, 本研究は, それぞれの葉枕間の相互作用の有無を検討したものである. 材料は, 浮稲品種Habiganj Aman 8 (HA) と水稲品種ササニシキを用いた. 両品種とも同一の傾向を示したので本報ではHAの結果について述べる. 第1実験では, インタクト個体と茎切片 (葉枕3個を含む) の重力屈性反応を比較検討した結果, 両者は, ほぼ同様の傾向を示した. 第2実験では茎切片を用いて各葉枕の屈曲の経時変化を調査した. いずれの葉枕も水平配置後1, 2時間内に屈曲を開始し, 42時間後には, ほぼ屈曲を終了した. 第3実験では, 特定の葉枕を屈曲しないように物理的に固定して各葉枕の反応をしらべた. 下位節葉枕を固定した場合は, 下位節葉枕の屈曲減少分を上位節葉枕が屈曲して補うことが認められた. 一方, 上位節葉枕を固定した場合は, 下位節葉枕の屈曲増加は見られなかった. 第4実験では, 各葉枕を単離してから任意の順に並べかえ, 再結合した場合の各葉枕の屈曲反応を調べた. 葉枕間には5mmの隙間を設けた. 反応能力の低下した下位節葉枕を最上位に配置すると, 屈曲角度の総和は100度近くの値を示したが, 若い上位節葉枕を配置したときはほぼ90度となった. 以上の結果から, 各葉枕は化学物質の交換なしに, それぞれの位置を察知して重力に反応することが示唆され, さらに上位節葉枕ほど屈曲角度の総和が90度に近い値となるような正確な調節能力を保持していることが明かとなった.
  • 高橋 肇, 中世古 公男
    1993 年62 巻1 号 p. 88-94
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    春播コムギ3品種を2週間間隔で3回播種し, 主要生育ステージを転換点とする4つの生育相について, 播種期の違いによる葉身, 穂および子実への乾物分配率の動向の変化を出芽後日数および発育指数に対する回帰式によって評価した. 生育相I (出芽期~幼穂分化期) では, 葉身への分配率 (Yl) を出芽後日数 (X) に対する回帰式Yl1=b1X+c1と発育指数 (X) に対する回帰式Yl1=B1X+C1で示した. 播種期の遅れにともない, 係数b1は増加し, 係数B1も同様に増加することから係数b1の増加が生育相の期間の短縮に原因しないことが明らかとなった. 生育相II (幼穂分化期~止葉出葉期) では, 葉身への分配率を出芽後日数に対する回帰式Yl2=-b2X+c2と発育指数に対する回帰式Yl2=-B2X+C2で示した. 係数b2は3品種とも早播区で最も低い値を示したが, 係数B2は播種期による変動の傾向が係数b2と異なり, 早播区で生育相の期間が長かったことに起因するものと考えられた. 一方, 生育相III (止葉出葉期~開花期) では, 穂への分配率 (Ye) を出芽後日数に対する回帰式Ye=-a3 (X-b3)2+c3と発育指数に対する回帰式Ye=-A3 (X-B3)2+C3で示した. 播種期の遅れにともない係数a3と定数項c3が増加し, 回帰曲線が細く尖った形を示した. 係数A3と定数項C3は晩播区で最も高く, 形の変化が生育相の期間の差に起因しないことが明かとなった. 生育相IV (開花期~乳熟期) では, 子実への分配率 (Yg) を出芽後日数に対する回帰式Yg=b4X-c4で示したが, 相関関係が低く, 回帰式が適合しないことが明かとなった. この原因として, 子実が常時一定の生長を示すのに対し, 稈の貯蔵養分は日射量の変化にともない増減することが明かとなった.
  • 狩野 広美, 石田 信昭, 高岸 秀次郎, 白田 和人, 小泉 美香
    1993 年62 巻1 号 p. 95-104
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    テンサイの根の形態, リン酸代謝及び蓄積化合物に対するナトリウムイオンの影響を1H-NMRイメージング, 31P-, 23Na-および13C-NMRによって検討した. 23Na-NMRによると, 根中のナトリウム濃度は180mMナトリウムを含む培地では9.2mMに達した. 31P-NMRスペクトルにおいて液胞中のリン酸シグナルの線幅がナトリウムの添加によって広がるという事実より, テンサイの根はナトリウムが細胞に与える害作用を軽減させる機構を備えているものと推定される. 1H-NMRイメージング画像においては, 表皮及び表皮に隣接する部分と維管束の周辺に強い水のシグナルが認められたが, ナトリウム処理によって水のシグナルは著しく弱くなった. 1H-NMRイメージング画像においてシグナルの強い部分はTNBT (テトラニトロ・ブルー・テトラゾリウム) で染色される部分と一致するので, 1H-NMRイメージングで検出し得る水は細胞の代謝活性が強い部分に存在するものと思われる. 80%エタノール抽出物の13C-NMRスペクトルによると, テンサイの根には蔗糖, ベタインおよびグルタミンが蓄積され, ナトリウム処理をすると蔗糖及びベタインが増加した. ナトリウム処理によって, これらの物質が細胞内に過剰に蓄積されて, 1H-NMRシグナルが弱くなる, その結果, 細胞の生理活性が抑制されるものと思われる. 本研究の結果よりテンサイの根の細胞は本質的に強い耐塩性を示すものと思われる. しかし, その生育は濃いナトリウムを含む培地では抑制され, 長期間の順化によって, さらに耐塩性が強くなるわけではないものと思われる.
  • 萩原 素之, 井村 光夫
    1993 年62 巻1 号 p. 105-110
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    湛水土壌中にイネ種子を播種すると種子の周りで局所的土壌還元が起こるが, この還元は出芽の阻害要因である. 1つの品種についてみた場合, この還元域が早期に, 大きくなるほど出芽が阻害される. 出芽の品種間差と局所的土壌還元との関係を検討するため, イネ種子の周りで起こる土壌還元の品種および温度による違いを調査した. 17℃では20℃よりも発芽前に種子が種子の周りで起こる土壌還元にさらされる期間が長かった. 還元の進行は17℃では20℃の場合の約1/2の緩やかさであったが, 発芽の頃の還元域は17℃でも20℃の場合より著しく小さくはなかった. したがって, 局所的土壌還元の出芽に対する影響は温度が低い場合に大きくなると推察した. このことは, 一般に低温下で出芽不良となることと関連が深いと思われた. 一方, 各品種の発芽率は17℃と20℃でほぼ等しく, 発芽率は出芽率よりも局所的土壌還元の影響を受けにくかった. 種子の周りの土壌還元の進行には品種間差がみられたが, 還元域の大きさと発芽率との間の正相関および, 還元域の大きさと出芽率との間の負相関はいずれも有意ではなかった. したがって, 出芽率の品種間差の発現には還元域の大きさだけでなく, Ehや還元土壌条件に対する耐性も関与していると考えられた.
  • 院多本 華夫, 加藤 盛夫, 今井 勝
    1993 年62 巻1 号 p. 111-115
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    生体重が20gから500gまでの異なる大きさの食用カンナの種イモ (根茎) を, 圃場に1.0m×0.5mの栽植密度で栽培し, その生長と根茎収量に及ぼす種イモ重の影響を検討し, 経済的な栽培を行うための適切な種イモ重を求めた. その結果, 種イモ重の増大は植え付けから出芽までの日数を短縮すると共に, 各種の生育形質および収量の増加をもたらすことがわかった. しかし, それらの増加は種イモ重が200g程度までの範囲内で明らかであったが, 200g以上での種イモ重の効果は明らかではなかった. 従って, 食用カンナの栽培において実用的な種イモ重は200g程度であるとみなされた.
  • 鈴木 克己, 三宅 博, 谷口 武, 前田 英三
    1993 年62 巻1 号 p. 116-125
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    本研究では, 開花後42時間から72時間までのイネ胚の細胞について観察を行った. 胚細胞の分裂方向が不規則になり, 胚の体積が増加するにつれて, イネ胚細胞内では細胞質の割合が増加し球形の胚となった. この球状胚は, 球形を示す胚固有部分と胚柄部分から構成されていた. 開花後48時間から66時間の球状胚の胚固有部分は, 豊富な細胞質を持った分裂活性の高い細胞で構成されていた. 一方, 胚柄の細胞は比較的大きな液胞を持ち大型であった. 開花後66時間までの胚表面にはI2KI-H2SO4-AgP方法に反応する物質は存在しなかった. 従って球状胚の表面には, クチクラ層が形成されていないと思われた. 開花後72時間になると, クチクラ層が腹側上部から形成され始め, しだいに球状胚全体を覆うようになった. 同時に胚内部では微細構造変化を伴う組織分化が始まった. これらの結果からクチクラ層の形成は, 胚の器官形成を誘導する最初の細胞学的兆候であると考えた.
  • 古屋 忠彦, 梅崎 輝尚
    1993 年62 巻1 号 p. 126-127
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
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  • 和田 富吉, 三宅 博, 鈴木 完明, 鈴木 克己, 武岡 洋治
    1993 年62 巻1 号 p. 128-129
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
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  • 石川 哲也, 秋田 重誠, 李 茜
    1993 年62 巻1 号 p. 130-131
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
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  • 上埜 喜八, 佐藤 雅志
    1993 年62 巻1 号 p. 132-133
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
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  • 斎藤 和幸, 縣 和一, 朝倉 政江, 窪田 文武
    1993 年62 巻1 号 p. 134-136
    発行日: 1993/03/05
    公開日: 2008/02/14
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