湛水条件下における水稲葉身水ポテンシャル (Ψ
1) の日中の低下しやすさが, 生育時期によって変化するかどうかを明らかにするために, 生育時期ごとに大気の蒸発要求とΨ
1との関係を調べ比較した. 蒸発要求は試作した直径11cmのろ紙蒸発計で測定した蒸発速度 (E
0) によって表した. 3年間にわたり, 島根県平坦部にある水田を中心に, 近接地域内にある中山間部水田も一部用いて合計3品種のイネを栽培し, 生育時期毎にE
0と最上位完全展開葉のΨ
1の日変化を同時測定した. その結果, 全ての場合を通じて, Ψ
1はE
0を変数とする一次直線でよく表せた. すなわち, 水田ではΨ
1は蒸発要求に対してきわめて敏感に反応して変化していると見なせる. そこで, この直線の傾きを蒸発要求に対する葉身水ポテンシャルの低下しやすさの程度とみなして, 生育にともなう推移を比較すると品種, 年度, 場所にかかわらず多くの場合共通の変化がみられた. すなわち, 田植後穎花分化終期ころまでの傾きの緩やかな減少と, それ以降の登熟期に入ってからの傾きの増加である. そして, 登熟中期に傾きが急になったものは, 完熟期近くになりふたたび傾きが緩やかになった. ただし, その程度は年度間, 地域間で異なった. すなわち, 最も明らかな違いは, 平坦部で慣行栽培したイネでは登熟中期に傾きがきわめて大きくなったのに比較して, 中山間部で慣行栽培あるいは平坦部で遅植えした場合にみられた登熟期にも傾きがあまり低下せず保たれる傾向である. また, 生育にともなう日最低Ψ
1の推移は, これらE
0とΨ
1との直線の傾きの推移ときわめて類似していたことから, 本報告では日最低Ψ
1もイネ自体の生育にともなう変化を反映しているとみなされた. 以上から, 水田における湛水状態のイネのΨ
1は大気の蒸発要求にきわめて強く支配されて変動すること, しかし, その影響される程度は生育時期にともない変化し, 特に登熟期において栽培条件の違いが強く反映されると結論された.
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