抄録
圃場条件下で生育した生育後期の水稲の個体より分離した諸器官, および, それらの器官をさらに切断した生理的令の異なる組織の呼吸速度の制御機構を把握するための試験を行い以下の結果を得た. 個体より分離した諸器官の暗黒にして15時間後の呼吸速度は穂や稈などの伸長中の組織を持つ器官では着生したままの器官の呼吸速度より低い値を示し, 葉のように成熟した光合成器官では逆に着生したものより高い値を示した. この際, 切断葉においては糖含量, 可溶性の窒素含量が高く, 他の器官ではその逆の傾向を示した. 一方, 種々の器官から切断した成熟組織では暗呼吸速度は発育途中の若い組織よりはるかに低いうえ, 夕方測定開始後から真夜中にかけて一時低下した後, 翌朝には再び高まり ("morning rise"以下MRと略記) それ以後は低下した. これに対し, 切断した若い組織では, 暗黒下に置き, 測定を開始した直後は非常に高い値を示すが, 時間と共にほぼ直線的に低下し, MRを示さなかった. 稲の若い組織の暗呼吸速度は基本的には基質である糖の濃度および窒素濃度により規定され, Rsと基質濃度, 窒素含量の関係はMichaelis-Menten式により近似可能と与えられたが, 組織が古い場合にはこの式によって近似することは不可能であった. この原因としては組織中に存在する糖あるいは窒素がすべて呼吸反応に関与しているのではなく, 生理的令が進むにつれ, 直接呼吸に関与しない部分が多くなることおよび老化の進行によりタンパク質の分解を伴うことなどによると推察された.