日本作物学会紀事
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生育後期の水稲個体の夜間の呼吸速度の変動に関与する諸要因
秋田 重誠李 〓雨石川 哲也李 茜
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1993 年 62 巻 1 号 p. 66-72

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抄録
水稲個体群のエネルギー収支に大きな影響を及ぼす個体の暗呼吸速度の変動に関与する諸要因を解明するために, 生育後期, すなわち, 出穂期前後から成熟期にかけて圃場で生育した水稲多収品種・系統の個体当り夜間の平均暗呼吸速度 (Rs-n) および個体を構成する諸器官の乾物重当り呼吸速度 (Rs) を測定し, 以下の結果を得た. Rs-nは生育時期 (PDS) により大きく変動し, 出穂期前後に最も高い値を示し, 以後徐々に低下した. また, 出穂期に近い材料のみについてRs-nと窒素濃度, 採取した日の日射量の関係を検討した結果, 生育後期においては基質と考えられる糖濃度に影響を及ぼす日射量とRsの相関は低く, 窒素濃度との相関は高かった. 上記3要因, すなわち, 生育時期, 窒素濃度, 日射量のRsの変動に対する寄与度を検討するために3要因を説明変数として重回帰分析を行ったところ, Rsの変動は主としてこれら3要因によっていることが明らかとなった (重回帰係数=0.831). 従って, 上記3要因以外の品種固有の要因によるRsへの影響は小さいと考えられ, 暗呼吸速度の遺伝的制御の可能性は大きくないと考えられた. また, 葉の糖濃度には供試した半矮性インド型品種と日本型品種の間で大きな差が見られたにもかかわらず, 葉のRsには両者のグループの間に違いが見られなかった. さらに, 出穂期の窒素当り呼吸速度 (Rs N-1) は生理的令の若い穂や稈で高く, すでに成熟している葉で最も低い値を示した. しかし, 成熟期に向かって葉のRs N-1は増大する一方, 穂などでは低下し成熟期においてはいずれの器官のRs N-1もほぼ同じ値を示した. 成熟した器官でRs N-1が大きくなる原因は窒素化合物の再利用のためのエネルギー消費によると推察された.
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