日本作物学会紀事
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異なる土壌条件に生育したコムギの胚乳と粉の走査型電子顕微鏡観察
佐藤 暁子小柳 敦史和田 道宏松田 智明
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1993 年 62 巻 2 号 p. 183-187

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抄録

異なる土壌に生育したコムギ品種農林61号の胚乳と粉の微細構造を走査型電子顕微鏡により観察し, 製粉歩留の高いカナダ産硬質コムギと比較検討した. 農林61号では灰色低地土で生育し粗タンパク含量が中程度の子実に比べ, 赤色土で生育し粗タンパク含量の低い子実では, 胚乳と粉の内部に空隙が多く1次, 2次デンプン粒が明瞭に認められた. 一方, 黒ボク土で生育し粗タンパク含量が高い子実では, 胚乳と粉の内部に空隙が少なく, デンプン粒間にはprotein matrixが多く, デンプン粒の抜け落ちた跡が鋳型状にprotein matrix上に明瞭に認められた. 赤色土に堆肥施用と窒素追肥の土壌改善を行い, 粗タンパク含量が増加した子実では, 胚乳や粉のデンプン粒間の空隙をうめるようにprotein matrixが増加した. このように土壌や窒素施肥の違いにより胚乳や粉の微細構造はかなり異なったが, 製粉歩留や粉の比表面積には違いがなかった. 一方, 粗タンパク含量が高く製粉歩留が高いカナダ産硬質小麦の胚乳や粉では, デンプン粒は板状のprotein matrixの中に塗り固められ, デンプン粒が識別しにくかった. また, その粉では, ひとつの細胞そのものが粉の粒子となっているものも多かった. これらのことから, コムギの製粉性や粉の形状の違いにはprotein matrixの量よりもそのデンプン粒を結合する物理的性質の違いの影響が大きいと考えられた.

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