抄録
蒸散流濃度係数によって表されるイネのナトリウム排除機能と蒸散および根部の呼吸との関係を明らかにするため, 根部に通気する空気の酸素濃度, 培養液の温度およびpHを変え, 異なる温度条件下で100 mmol 1-1 NaCl濃度処理を行った. その結果, 蒸散速度が高いほど蒸散流ナトリウム濃度係数(TSCFNa+)は双曲線的に低下し, 分離排除の効率が高まることが再確認された. しかしながら, 根部の呼吸速度とTSCFNa+および茎葉部Na含有率の間には明確な関係は認められず, 根部の呼吸はNaの分離排除に直接関連しないものと考えられた. また, 培養液の温度およびpHを, 20℃と32℃, pH 4と7に変えた場合でも, 蒸散速度とTSCFNa+の関係には差異は認められなかった. さらに, TSCFNa+と蒸散流塩素濃度係数の間に正の直線関係が認められ, この排除機能が塩素イオンに対してもほぼ同様に働くことがわかった. これらの結果から, イネの根におけるNa+およびClの排除は非代謝的過程に基づくことが示唆され, また耐塩性の確保には, 塩分条件下でも蒸散速度を高く維持できることが重要と推察された.