抄録
春播コムギ(品種ハルユタカ)の登熟機構に対する同化産物の不足の影響を解析することを目的として, コムギの登熟初期(開花2日前~開花7日後), 登熟前期(開花7日後~14日後)および登熟後期(開花14日後~21日後)にそれぞれ95%遮光布による遮光処理を行い, 子実および稈の可溶性糖分(WSC)と構造物質の乾物蓄積および転流の動向を調査した. 95%遮光処理は, 処理中の同化産物の生産をほぼ停止した. しかしながら, 子実乾物重は処理中においても対照区の50~60%の高い増加速度を維持し, 不足分の同化産物を稈のWSCの転流により補っていた. 登熟初期では, WSCは対照区で増加したものの(20 mg pl-1),初期処理区では減少し(-15 mg pl-1), 子実乾物重は対照区で19 mg pl-1の増加速度を示したのに対して, 初期遮光区では11 mg pl-1とそのおよそ50%の増加速度を維持した. 登熟前期でも, WSCは対照区で増加(12 mg pl-1), 前期遮光区で減少(-15 mgpl-1)し, 子実乾物重は対照区で38 mg pl-1の増加速度を示したのに対して, 前期遮光区で24 mg pl-1とそのおよそ60%の増加速度を維持した. また, 登熟後期では, WSCは対照区で-7 mg pl-1の速度で減少し, 後期遮光区ではその5倍の-33 mg pl-1で減少した. このため子実乾物重は対照区で55 mg pl-1の増加速度を示したのに対して後期遮光区では34 mg pl-1とおよそ60%の増加速度を維持した. 一方, 登熟初期では, 初期遮光区でも対照区と同様の稈長を示したが, 稈の構造物質重は遮光区で増加しなかった. これらの生理的機構から遮光処理により子実への分配が高まる場合と高まらない場合との違いについて論議した.