抄録
ブラジルの半乾燥地帯であるセラードにおいて, ブラジル, メキシコ, 日本原産のコムギ, 19品種を非潅慨条件と潅慨条件下で裁培し, 個葉光合成速度と子実および乾物収量との関連性を調べた. 非潅慨粂件下ではブラジル品種が高い光合成速度を示し, メキシコ品種と日本品種がそれに続いていた. しかし, 潅慨条件下では光合成速度に品種群間差が見られなかった. また, 非潅慨条件下では光合成速度と水利用効率との間に高い正の相関関係が認められたが, 潅慨条件下では認められなかった. これらより, 非潅慨条件下ではブラジル品種は高い光合成速度と水利用効率を示し, 逆に, メキシコや日本の品種では光合成速度も水利用効率もブラジル品種より低いことが判った. また, 光合成速度と栽植密度の低い条件下での個体当り収量(一種の潜在的収量)との関係を調べたところ, 非潅慨条件下では両者の間に有意な正の相関関係が認められたが, 潅慨条件下では相関関係が認められなかった. これらのことから, 土壌が乾燥した条件下では, 光合成速度の品種間差は潜在的収量の品種間差に反映され, 光合成速度の改善が収量の改善に結び付く可能性が示された. しかし土壌水分が好適に保たれている場合には, 光合成速度の品種間差は収量の品種間差に関係しないと考えられた.