抄録
水稲個葉における葉面積当たり窒素含有量(mgNdm-2)と純光合成速度(Pn)との関係で, 同じ窒素含有量でありながらもPnに違いの起こる原因を, 水ポテンシャル, 葉位, 葉の展開後日数を考慮して解析し, さらに根の呼吸速度で示される根の機能の関連性を議論した. 品種ヤマビコとオオチカラを鉢で育て, 幼穂形成期から登熟初期にかけて, 27℃に空調された室内で照度45~50Klx, 25℃の条件下で純光合成速度を測定した. その直後に, 同じ葉についてプレッシャーチェンバー法で葉身木部水ポテンシャル(Wp)を測定した. 両品種ともに第I葉(最上位完全展開葉)から第III葉までは, 全測定時期をとおしてmgNdm-2とPnとの間に高い正の相関関係があったが, 第IV葉ではそれが認められなかった. 葉のageが若くて(展開後日数15日以内), mgNdm-2の多い第I葉はWpと高い正の相関があった. この傾向は第II葉においてもmgNdm-2を一定範囲にとると同様に認められた. 第III葉では, 同じmgNdm-2の葉でもWpの低い葉で高いPnを示し, 上位葉とは逆の傾向にあることを認めた. 第IV葉のPnはmgNdm-2よりもWpの影響を強く受けて, Wpが-1.4MPaという低い側で高いPnを示した. 第III, IV葉のWpは, その個体の有する根の呼吸速度と高い負の相関関係が認められた. 根の老化した個体では, 水の通導抵抗が増大するため下位葉は気孔開度を減じて葉内水分を保つため, Wpは高まるがPnは低下すると考察した.