抄録
鉢栽培した水稲(品種:ヤマビコ, オオチカラ, 荒木)の個葉を温度25℃, 照度45~50Klxの条件で, 同化箱により純光合成速度(Pn)を測りながら葉身基部を葉鞘から切離した. 同時に, 葉内水分の変化を非破壊的にβ線透過率(I/I0)で測定した. 処理前の純光合成速度(Pn*)の高い葉, および著しく老化が進んだ葉を除いて, 切離処理後1分間以内にPnは急激な一時的上昇を示し, 以後急速に低下した. そのPnの最大増加率は, 処理前のPnが低いほど大であった. また, 切離処理によるPnの増加量(ΔPn)は, I/I0で示される葉内水分の減量(ΔI/I0)の多いものほど大であった. これらの関係は次式で表現でき, 計算値は実測値とよく適合した. ΔPn=4.95exp(-0.06Pn*)・Δ(I/I0)(r=-0.965**) 葉内水分量と葉内空気量とは負の相関があることより, 水分過剰のときは葉肉拡散伝導度が抑制されると推論した. これは, 切離処理によるPnの増加は, 気孔開度には変化がなくて, 葉内CO2濃度が低下するという実験結果を根拠とした. 処理前の葉身に水分が多くてPn*が抑制されている葉ほど, 葉内水分の減少過程において一時的に大きなΔPnが得られることとなる. 葉内水分の過多によるPnの抑制は, 早朝および曇天時日中でも生じていることを野外実験で確かめた.