日本作物学会紀事
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干ばつ下におけるイネ乾物生産への土壌からの水吸収能力および水利用効率の貢献度
小葉田 亨奥野 友美山本 孝信
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1996 年 65 巻 4 号 p. 652-662

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抄録

作物におけるある期間中の乾物生産量は土壌水分の吸収量すなわち蒸散量と吸収した水の乾物への変換効率(水利用効率)との積で表せる. そこで, 本報告では干ばつ下でイネが高い乾物生産量や収量をあげるためには, 土壌水分の吸収能力と水利用効率のどちらの性質がより貢献しているのかを, 耐乾性のきわめて異なる4品種のイネを用いて明らかにしようとした. 降雨を遮断した圃場条件下で, 生殖生長期開始頃から43日間にわたって潅がいを停止すると, 葉身水ポテンシャルや気孔伝導度の低下の仕方が異なり, その結果乾物生産量と収量は従来耐乾性の優れるとみなされている品種ほど高かった. さらに, この間の土壌水分消費量と乾物生産量との間には密接な直線関係があった. そして, 地表10cm以下の根重密度が高い品種ほど土壌水分の消費量が多かった. また, この土壌水分消費量から土面蒸発推定量を除した蒸散量から計算した水利用効率には大きな品種間差はなかった. さらに圃場実験に用いた品種の中から3品種を選んでポット栽培したものに, 幼穂分化期初期に給水を5段階に変えて約2週間異なる土壌乾燥を与え, 水利用効率を比較したところ, やはり土壌乾燥強度, 品種間でほとんど違いがなかった. 以上から, これまで耐干性の強いと見なされているイネは, 深く発達した根によって多くの水を吸収することで干ばつ下での乾物生産を維持しており, 水利用効率の品種間差が乾物生産の違いに強く寄与することは極めて少ないとみなされた.

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