日本作物学会紀事
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キャッサバ葉におけるグリシンデカルボキシラーゼの細胞間分布 - 光合成型並ぴに葉の解剖学的特性との関連
上野 修東江 栄
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1997 年 66 巻 2 号 p. 268-278

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抄録
キャッサバ (Manihot esculenta Crantz) の光合成型については, C3-C4中間型という報告とC3型という報告とがある. 光呼吸の鍵酵素であるグリシンデカルボキシラーゼ (GDC) は, C3. C4中間型とC3型との間で葉における細胞間分布のパターンが異なることが知られている. 本研究ではこの点に着目して, キャッサバ3品種の葉内における GDC の分布を金コロイド免疫電子顕微鏡法により調査するとともに, 葉の解剖構造を観察することにより光合成型を検討した. キャッサバの葉は基本的には下面気孔葉の特徴をもち, 光合成組織は柵状葉肉細胞, 海綿状葉肉細胞および維管束鞘細胞から構成されていた. 維管束鞘細胞は遠心的に配列した葉緑体を含んでいたが, ミトコンドリアの密度の増加は観察されなかった. GDC の存在を表す金粒子の標識がこれらの光合成細胞のすべてのミトコンドリアに見出され, C3型の細胞間分布を示した. しかし, 柵状葉肉細胞のミトコンドリアにおける金粒子の標識密度は, 海綿状葉肉細胞や維管束鞘細胞のそれより高い値を示し, より濃密に GDC 蛋白質を蓄積しているものと考えられた. 水不足の下で形成された葉では, この細胞間の標識密度の差はより顕著となった. 以上の結果は, 少なくとも実験した3品種のキャッサバはC3・C4中間植物ではなく, むしろC3植物であることを示している. なお, 細胞間による GDC の蓄積量の違いについては, 葉内部における光呼吸活性の勾配の点からさらに調査する価値があるものと考えられる.
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