抄録
「理想稲(V字)稲作理論」は, その草姿制御の原理に, 茎葉器官の同時伸長性を授用している.しかしこの原理の, 追肥や窒素吸収の制限による実証結果をみると, 上位葉身は伸縮しても, これらと同時伸長する下位伸長節間は明瞭な反応を示していない.この問題の解析から, 草姿制御で対象とすべき茎葉単位とその最適制御時期が明らかになった.すなわち, 茎葉部の伸長量は, ある節間とその下位節に着く葉身が1つの単位となって制御され, 施肥に対してはこの単位の茎葉が相伴って反応する.施肥に対する葉身の伸長反応が大きいのは, 伸長期にある若い葉ではなく, その1葉位上の, まだ分化期にある幼葉である.したがって, 草姿制御は, 上記の茎葉単位を対象として, その分化期に制御操作を加えるのが最も有効である.この法則性に基づいて作成した草姿制御モデルにより, 以下のことが統一的に説明できるようになった.(1)「理想稲稲作理論」でいう窒素吸収の制限法では, 上位葉身は短縮するが, 下位伸長節間はほとんど短縮しない.(2)生育前期の多肥条件は下位伸長節間に徒長性の素質を付与する.これに加えて, 生育中期以降に窒素吸収力が低下すると, 下位伸長節間・下位葉身が伸びて過繁茂となる上に, 上位伸長節間・上位葉身が短くなって秋落型の草姿となる.(3)生育前期を少肥条件で経過させて, 生育中期に窒素を吸収させると, 下位伸長節間が短く, 上位伸長節間・上位葉身が長い逆三角形型の草姿が形成される.