日本作物学会紀事
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FACE(開放系大気CO2増加)実験
小林 和彦
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2001 年 70 巻 1 号 p. 1-16

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抄録
FACE(Free-Air CO2 Enrichment = 開放系大気CO2増加)は,何の囲いもしない圃場の空気中に直接CO2を吹き込んで,植生の周りのCO2濃度を高める実験手法である.FACEにより,大気CO2濃度が上昇した時の植物や生態系の変化を,現実の圃場で観察できる.1987年にアメリカで始まったFACEは,今ではアメリカとヨーロッパを中心に世界中で,農作物,牧草,樹木,自然植生を対象にした研究に用いられており,日本でもイネのFACE実験が1998年から行われている.大気CO2濃度の上昇が植物に及ぼす影響については数多くの研究があり,初期の温室や環境制御チャンバーでのポット実験から,近年のオープントップチャンバー等のフィールドチャンバー実験に至っているが,いずれもチャンバー自体が植物の生長を変化させ(チャンバー効果),それがCO2濃度上昇に対する植物の応答を変化させている可能性がある.これに対してFACEは,チャンバー効果が無い上に,大面積の圃場を高CO2濃度にできる特長があり,今や実用的な実験手法として確立しつつある.FACE実験の結果は,農作物の収量増加率については従来の実験結果をほぼ支持しているが,さらに収量増加に至る生長プロセスの変化やメカニズム,生態系の変化について,多くの新しい研究成果を生み出しつつある.今後は,FACE実験結果のモデリングへの利用,複数地点でのFACE実験実施と実験結果の比較解析,そして特に発展途上国でのFACE実験の展開が期待される.
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