北海道の多雪地帯で試行されている春播コムギを根雪前に播種する栽培法において,越冬性が低下する要因と改善するための方法について検討した.発芽個体数は,播種後積雪下で30日目頃から増大し,その後,種子根および鞘葉が徐々に伸長した.根雪後40日目頃までに発芽しうる種子はほぼ発芽したが,そのうち越冬して起生できた個体数は大きく減少した.途中,雪腐黒色小粒菌核病の発生が観察され,発芽以後の越冬性の低下に関与するものと推定された.積雪下での発芽率を高めようと20℃や2℃で催芽した種子を播種したが,越冬性は改善されなかった.また,発芽率の低い種子を用いた時の越冬性は劣らないが,単位面積あたりの越冬個体数,穂数の減少を招き,子実収量は減少した.これらより,越冬性の低下要因は発芽過程にはなく,発芽後の障害が原因と考えられた.越冬性の改善について,粒径が2.2mm以上の大きい種子を用いた時には越冬性が高くなり,消雪後の生育や子実収量も高まることが明らかとなった.種子の大きさは積雪下での養分の消費と生長,特に起生時の生育に関係するものと推察された.