抄録
明治になって西洋画を描くことが推奨されたことに伴い,西洋画絵具の国産化が始まった.1919年には,京都でソフトパステルが初めてつくられるようになった.ソフトパステルの特徴はあらかじめ多くの色数が揃えられているところである.「日本の風土を描くためのパステルがほしい」という洋画家,矢崎千代二の依頼により製造に取り組んだという逸話から,本研究では画家がどんな色を求めたのかを探った.国や地域には「伝統色」とよばれる特徴的な色合いがある.その色合いが描画材料に反映しているのではないかと仮説を立て,マンセル表色系を使って日本及びフランス製のパステルセットと各伝統色の関連性を調べた.あわせて創業の歴史と製造方法及び旧来と現在との色揃えについて,製造者にヒアリング調査を行った.その結果,日本人の繊細な色彩感覚に応える色合いを揃えたことと独特の顔料調合方法を用いたことがわかった.その背景には創業者自身の絵描きとしての思い入れがあったことを窺い知ることができた.