抄録
人間の視覚は加齢に伴い変化することが知られている.変化の1つとして白内障が挙げられる.白内障になると視界にかすみが生じ,結果として視界の彩度が低下する.高橋らの研究では,かすみが生じた瞬間に彩度低下を補正する効果の存在を明らかにした.しかしこの研究で使用した画像は1種類であり,結果の一般性についての検証が不十分であった.本研究では,かすみに対する順応時間と彩度知覚の関係について,より詳細に検証した.実験では,眼前にフォギーフィルタを設置後,0秒から180秒の間で設定時間ごとにテスト刺激を各2秒間呈示し,被験者の応答を記録した.彩度を段階的に変調させた各テスト刺激に対し,「自然に見える」と「色あせて見える」境界(低彩度側)と「自然に見える」と「色鮮やかに見える」境界(高彩度側)を測定することで,画像の鮮やかさが自然に見える範囲を求めた.その結果,瞬間的な補正効果が先行研究と同様に得られた.さらに,かすみがある場合,かすみがない場合に比べて自然に見える範囲が増加した.時間的な変化では,高彩度側はフィルタありの場合の見えに近づき,低彩度側はより彩度が低い画像も自然に見えるようになった.