2019 年 43 巻 3+ 号 p. 21-
指紋の同定は,犯罪捜査において最も有力な方法の一つであり,犯罪現場などに残された証拠物から指紋の形状を鮮明に得ることは重要である.指紋は通常は肉眼では見えないため,ニンヒドリン処理などの有色化処理によって指紋を可視化することが従来から広く行われている.しかし有色化後の指紋と,指紋が付着している背景物体の明るさや色が近い場合は,有色化処理後も指紋が背景に埋もれて視認困難となり証拠として活用できない場合が多い.そこで有色化処理後の指紋を画像化し,画像処理による指紋の鮮明化について検討した.ニンヒドリン処理により有色化した指紋を含む紙のRGBカラー画像をCIELAB色空間上に変換し,色相の周期性を利用して各画素の色相の値を明暗に対応させて画像表示することで指紋の鮮明化が可能な場合が存在した.鮮明化の余地が残った画像に対しては,RGB空間またはCIELAB空間において画像の三次元色情報の分布を主成分分析し,各主成分に対応する画像を表示したところ指紋を鮮明化することができた.本事例では,ほぼ反対方向の色相を持つ構造同士の分離により指紋が鮮明化されたことがわかった一方,指紋の色相に近い背景模様の分離には至らず課題が残った.