日本の色彩文化は,近代以前と近代以降において,顕著な違いが見られる程に変化している.端的に言えば,「西洋化」にともなう色彩文化の変化と言って良い.しかし,色名の変化については,近代化・西洋化という文脈において,漠然と言及されることが多い反面,具体的にどのような領域に西洋化の影響があり,いつ頃から変化を迎えているのか,という点はあまり明確になっていない.さらに,近代化・西洋化に伴う色名の変化がありつつも,近代以前から続く和漢の色名はその後も消失せず,アルファベット表記(英語やラテン語)で表記された色名の発音をカタカナで充てた色名や,アルファベット表記とカタカナ表記をと同時併記するもの,漢字・カタカナ・ひらがなの表記等が混在・併存し,今日でも外来語由来と思われる色名の表記に際して,明確な基準があるわけではない.しかし,ある程度の傾向のようなものは感じられるものである.本研究は近代化・西洋化として一義的に捉えられがちな日本近代の色彩語と文化変容について,色料の変化や教育における変化や,国語国字の問題等を参照し,色名の近代化の背景と歴史的経緯を整理する.