2019 年 43 巻 3+ 号 p. 71-
色彩は造形芸術の基盤要素であり,美術・デザイン教育において様々な教授法が研究,実践されてきた.しかし第三次産業革命を通してデザイン実務へのデジタル技術浸透が進み,そこへ人材を送り出す造形芸術系の教育現場もそれに対応した再編と,授業運営の効率化を推進する選択の結果,絵具を使う色彩演習は減少した.第四次産業革命へと移りゆく「脳化社会」を生きるデジタル・ネイティブ世代の造形芸術系学生は却って現実の物理空間における物体の振る舞いや人間の知覚をよく理解しなければならない.これらに鑑み,造形基礎科目再編の機に「手で探索し思考する色彩演習」を企画し,「色のデッサン」をテーマに体感と観察を基本に据えて,それを色彩学の基礎知識と応用技能に誘導するプログラムを構想した.本稿では,皮膚感覚を通して多様な材質を実感し色彩と戯れる演習の成果物を事例とし,学生の意識変化と学びの有効性を検討した.自然の振る舞いに少し人間が介在する技法での造形実験は観察からの気づきを促すのに有効で,実材ゆえのはがゆさも自然を味方につけた歓びもその時の感情と一緒に記憶され,意欲向上と創造力の発展に寄与すると評価できる.