日本交通科学学会誌
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Print ISSN : 2188-3874
糖尿病による意識障害に起因した自動車事故例の検討
本邦判例からみた運転者の注意義務と予防対策について
馬塲 美年子一杉 正仁松村 美穂子相磯 貞和
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2011 年 11 巻 1 号 p. 13-20

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抄録

糖尿病患者は、治療中の低血糖により意識障害を引き起こすことがあり、運転中に発作が起こった場合には、死傷事故につながる。今回われわれは、糖尿病治療中の低血糖による意識障害に起因した自動車事故の裁判例を調査し、糖尿病患者が自動車を運転する際に求められる注意義務、および事故予防のため医師や社会が注意すべき点について検討した。対象は8例で、事故は1996年から2009年に発生していた。運転者の職種は、職業運転者が3人、会社員2人、無職(主婦)2人、僧侶1人であった。また、事故で計7人が死亡し、16人が負傷していた。裁判では、病気による意識障害を理由に無罪を主張した例は3例あった。処分が判明している6例はすべて有罪であった。糖尿病治療中の患者が自動車を運転者する場合、前兆を感じた時点で運転を中止する義務、もしくは運転自体を控える義務がある。つまり、病気を理由に刑事責任を免れることはできない。また、行政によるチェックの強化や事業者に対する指導の徹底により、事故の予防効果は高まる。さらに、糖尿病治療中の低血糖が医原性のものであることを考慮すれば、医療従事者が糖尿病患者に対して運転中の低血糖予防についてさらなる指導が必要であると考えられた。

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