日本交通科学学会誌
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Print ISSN : 2188-3874
剖検例に基づく自動車運転姿勢再現の試み
運転中の意識消失の可能性を考える
安川 淳一杉 正仁槇 徹雄櫻井 俊彰堺 英男
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2011 年 11 巻 2 号 p. 25-31

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抄録

運転者の意識消失が事故原因であることを明らかにするため、交通事故剖検例を対象にコンピュータシミュレーションによる検討を行った。1997年8月から2011年7月までに獨協医科大学法医学教室で行われた交通事故死関連の法医剖検例267件の中から、直接死因は外傷死であるものの、直前の回避行動が見られなかった2例を解析対象とした。事故再現にはMADYMO7.0を使用し、乗員モデルにはTNOオートモーティブ社製のデジタルモデルHybrid III American Male 50%ile・Hybrid III American Female 05%ileを用いた。車室内モデルの寸法は事故車と同一とし、推定された衝突速度で生ずる車体減速度を事故再現モデルへ入力することで事故を再現した。衝突直前の乗員姿勢に着目し、剖検例に基づく正確な損傷を基にコンピュータシミュレーション上で事故時の乗員挙動を再現して、検討を行った。その結果、1例目では初期姿勢が正規着座姿勢から状態を20°後方へ傾けた状態であり、2例目では上体を25°前方へ傾けた状態であった。そして、衝突時の挙動を経時的に明らかにできた。本検討によって、衝突直前の乗員姿勢を明らかにし、事故直前に乗員が意識消失状態にあったことが強く示唆された。今後は交通事故死者に対して、事故直前の姿勢を明らかにすることで意識消失の有無を確認する必要があろう。また、事故予防に向けたシステムの開発に向けて、運転者の意識状態と着座姿勢の関係を定量的に評価する必要があろう。

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© 2011 一般社団法人 日本交通科学学会
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