抄録
運輸事業にかかわる運転手には、長時間の運転業務や多様な勤務シフトが要因となって生活リズムの維持が困難なケースがある。この状態における運転業務は居眠り運転等による重大事故を引き起こしかねないため、その対策が求められている。そこで、今回、生活リズムが乱れている人に対して就寝・起床リズムを整え、寝覚め感を改善することが報告されている食品(アスパラガス抽出物含有加工食品)を用いて、その摂取がタクシー運転手の睡眠状態だけでなく、疲労や運転評価に及ぼす影響を評価するために、探索的な試験(非盲検・無作為化並行群間比較試験)を実施した。本試験では愛知県を拠点とする株式会社フジタクシーグループの協力の下、タクシー運転手76名を被験者とした4週間の介入(食品摂取)を実施した。被験者を試験群(試験食品摂取あり)と対照群(試験食品摂取なし)の2群に分け、食品摂取前から摂取4週間後にかけて睡眠状態や疲労および安全運転状況を評価した。その結果、対照群と比較して、試験群においてセントマリー病院睡眠質問票で評価した睡眠時間が有意に増加し、カロリンスカ眠気尺度で評価した眠気やチャルダー疲労尺度にて評価した疲労感が有意に改善した。また、起床時の寝覚め感や勤務中の眠気の頻度も改善傾向にあり、試験食品がタクシー運転手の睡眠や疲労感を改善することが示唆された。ドライブレコーダーを用いて客観的に評価した安全運転状況に関しては、急加速回数が減少傾向にあり、試験食品による睡眠の改善が安全運転にも寄与し得ることが示唆された。現段階では、睡眠の改善に対して認知行動療法など限られた方法が利用可能な状況にすぎないが、今回の結果はアスパラガス抽出物含有加工食品もその対策として利用可能なことを示したものであり、運転手の健康維持や運輸事業者の健康経営推進に向けた選択肢の一つとして社会貢献につながる可能性を示した。