抄録
事業用自動車の健康起因事故は近年増加傾向にあり、そのうち約2割は、運転中の意識障害などにより運転操作が不能となったものである。過去6年間で健康起因事故を起こした職業運転者の疾病は、心臓疾患、脳疾患、大動脈瘤および解離でほぼ3割を占め、運転者死亡事例ではほぼ8割以上であった。心臓疾患、脳疾患、大動脈瘤および解離は、いずれも生活習慣病との関連が強い。また生活習慣病は、交通事故を起こす確率が高くなるといわれている睡眠時無呼吸症候群とも密接な関係がある。職業運転者は、業務の特性上、このような疾患のリスクが高いと報告されている。事業用自動車の事業者には、運転者の安全・健康に配慮するとともに、安全輸送に努める義務がある。具体的な義務については法令で定められており、これを実効性のあるものとするために、国土交通省は「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」を策定して、実効性の確保を目指している。しかし、比較的近年においても、乗務前点呼の実施や健康状態の確認、報告といった基本的な管理が行われていなかったことによる健康起因事故の発生がみられる。健康起因事故が発生した場合には、事故を起こした運転者だけでなく、事業者も刑事・民事・行政の3点から責任を問われる可能性がある。法的責任を負うことで、社会的信用は低下し、大きな経済的損失が発生し、事業認可が取り消されることもある。運転者の安全・健康、安全輸送、健全な事業運転の継続のためにも、運転者の疾病・健康管理は重要である。また、疾病・健康管理を徹底させることは、深刻な人材不足が続く運輸業界において、労働力の確保にもつながる。今後、事業者は運転者の運転業務の継続および復帰までを見据えた対策を検討していくことが必要であろう。