日本交通科学学会誌
Online ISSN : 2433-4545
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21 巻, 1 号
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  • 馬塲 美年子, 一杉 正仁
    2021 年 21 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2022/10/14
    ジャーナル オープンアクセス
    事業用自動車の健康起因事故は近年増加傾向にあり、そのうち約2割は、運転中の意識障害などにより運転操作が不能となったものである。過去6年間で健康起因事故を起こした職業運転者の疾病は、心臓疾患、脳疾患、大動脈瘤および解離でほぼ3割を占め、運転者死亡事例ではほぼ8割以上であった。心臓疾患、脳疾患、大動脈瘤および解離は、いずれも生活習慣病との関連が強い。また生活習慣病は、交通事故を起こす確率が高くなるといわれている睡眠時無呼吸症候群とも密接な関係がある。職業運転者は、業務の特性上、このような疾患のリスクが高いと報告されている。事業用自動車の事業者には、運転者の安全・健康に配慮するとともに、安全輸送に努める義務がある。具体的な義務については法令で定められており、これを実効性のあるものとするために、国土交通省は「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」を策定して、実効性の確保を目指している。しかし、比較的近年においても、乗務前点呼の実施や健康状態の確認、報告といった基本的な管理が行われていなかったことによる健康起因事故の発生がみられる。健康起因事故が発生した場合には、事故を起こした運転者だけでなく、事業者も刑事・民事・行政の3点から責任を問われる可能性がある。法的責任を負うことで、社会的信用は低下し、大きな経済的損失が発生し、事業認可が取り消されることもある。運転者の安全・健康、安全輸送、健全な事業運転の継続のためにも、運転者の疾病・健康管理は重要である。また、疾病・健康管理を徹底させることは、深刻な人材不足が続く運輸業界において、労働力の確保にもつながる。今後、事業者は運転者の運転業務の継続および復帰までを見据えた対策を検討していくことが必要であろう。
  • 宮田 湧希, 鬼本 大輝, 鈴木 悠斗, 大賀 涼, 櫻井 俊彰, 杉町 敏之, 槇 徹雄
    2021 年 21 巻 1 号 p. 11-25
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2022/10/14
    ジャーナル オープンアクセス
    国内では高齢者の移動手段として、ハンドル形電動車いす(以下、電動車いす)の普及が進んでいる。今後は高齢化の進行に伴う需要増加により、電動車いすが絡む交通事故も増加することが危惧される。電動車いすの絡む交通事故では、道路横断中の事故がもっとも高い割合を占める。先行研究では、自動車が電動車いすに30km/hで側面衝突する事故を再現した実車実験を行い、乗員の頭部が路面と衝突することで頭部傷害を受傷する可能性が認められた。しかし衝突速度が変化した際の頭部傷害受傷メカニズムについては十分な検討がされていない。また自動車に標準装備のベルトや、バイクにおいて着用が義務付けられているヘルメット等の乗員保護装置の効果に関する検討も十分にされていない。本研究はComputer Aided Engineeringにより、自動車との側面衝突事故において衝突速度が変化した際の電動車いす乗員の頭部傷害受傷メカニズムの把握と、乗員保護装置の評価を目的とした。実車実験の条件から衝突速度だけを変化させた場合、衝突速度が20〜40km/hの条件で乗員は衝突車両側へ倒れ込んだ後に電動車いすから放出され、頭部や上体が路面に衝突した。頭部傷害値であるHIC36(Head Injury Criterion)は乗員の転倒挙動および頭部衝突対象が異なるためばらつき、一部の条件で傷害基準値を超えた。次に各種の乗員保護装置を検討した。乗員がラップベルトを装着した場合、乗員は一様に頭部から路面に落下し、HIC36は衝突速度15〜40km/hで傷害基準値を超えた。電動車いすのアームレストを上げた場合、側面衝突事故の発生割合が高い衝突速度30km/hまでの範囲では、乗員は一様に衝突車両側へ転倒し、乗員の移動距離が抑制された。また、乗員がヘルメットを装着すると頭部への衝撃が緩和されるため、HIC36は衝突速度10〜40km/hの範囲で傷害基準値を下回った。以上より、ラップベルトを装着せずにヘルメットの着用およびアームレストを上げることが側面衝突時の電動車いす乗員の頭部傷害低減に有効であるとの結論が得られた。
  • ─妊婦運転者に対する実態調査─
    花原 恭子, 立岡 弓子, 一杉 正仁
    2021 年 21 巻 1 号 p. 26-32
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2022/10/14
    ジャーナル オープンアクセス
    妊婦の自動車運転によって生じた自動車事故またはヒヤリハットは、母体および胎児の生命の危険に遭遇する可能性が高い。そのため、妊婦の自動車事故の要因を分析し、安全性を確保することは急務である。そこで、妊婦運転者の自動車事故またはヒヤリハットの発生率や原因の実態を明らかにし、自動車乗車中の妊婦に対する安全教育の具体的な課題を明確にするために、妊婦を対象としたアンケート調査を行った。対象は、産婦人科外来の妊婦健康診査または母親教室を受診し、日常的に自動車を運転する妊婦696人である。妊婦の自動車運転による事故経験率は2.9%、ヒヤリハット経験率は7.8%であった。そのうち、自らが原因で起こした自動車事故またはヒヤリハットの経験率は44人(4.6%)であった。さらに、原因については、「ぼーっとしていた」がもっとも多く(妊娠前期67.9%、妊娠後期87.5%)、「つわりによる気分不快」が続いた(妊娠前期46.4%、妊娠後期12.5%)。妊娠前期と妊娠後期で原因を比較すると「つわりによる気分不快」は、妊娠前期に有意に多く認められた(p<0.05)。自動車運転は利便性が高いことから妊婦が利用する機会も多いが、とくに妊娠前期にはつわりや眠気による集中力低下を起こしやすいため、セルフケアできるような保健指導が必要であり、妊婦がセルフチェックを行ったうえで安全に自動車運転を実施するよう、注意喚起する必要がある。
  • 川戸 仁
    2021 年 21 巻 1 号 p. 33-39
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2022/10/14
    ジャーナル オープンアクセス
    日本国内の新生児医療現場において、新生児期の車での安全な移動に関する議論がなされる機会が海外に比較して少ない。新生児医療現場からみた新生児期の車の移動に関する成田赤十字病院(以下、当院)の現状と問題点を調査した。対象は2015年1月〜2019年12月の5年間、近隣産院出生で状態不安定のため搬送救急車で当院に収容した新生児372例のうち、状態が安定したため出生元の産院に後方搬送を行った新生児73例。新生児集中治療室(NICU)退院時の交通手段として、いずれの年も搬送救急車よりも自家用車使用の割合が高い傾向であった(2015~2017年:100%、2018~2019年:50%)。また、同期間で出生体重が2,000g未満の低出生体重児297例のNICU退院時の体格(身長、体重)について1,000g未満(A群)、1,000~1,499g(B群)、1,500~1,999g(C群)の3群に分けて比較したところ、軽症で状態安定に時間を要さなかったC群が3群の中でより小さな体格で退院していた。生後間もない新生児の移動を考慮した際に、とくに満期産児よりも一回り小さな状態で退院する低出生体重児において、CRS(child restraint system)装着の際にはハーネスとの隙間や着座姿勢に対する工夫などが求められることが多く、既存のものを使用するだけでは安全性を含めた退院指導に限界があり、今後現場の需要に即したCRS装置などの開発が待たれる。
  • ─救命可能性について─
    東條 美紗, 竹田 有沙, 高相 真鈴, 中村 磨美, 一杉 正仁
    2021 年 21 巻 1 号 p. 40-46
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2022/10/14
    ジャーナル オープンアクセス
    車両運転中の心臓突然死事例を解析し、自動車運転中に突然発症する致死的心疾患に対する救命可能性について検討した。滋賀医科大学医学部社会医学講座法医学部門で2015年1月〜2021年1月に行われた剖検例から、屋外で発生した心臓突然死例を抽出し、運転群と非運転群に大別した。対象は35例であり、平均年齢は63.9歳であった。運転群が20例、非運転群が15例で、年齢、男女比、BMI(body mass index)、生活習慣病と心疾患の既往頻度に有意差は認めなかった。運転群のうち19例(95%)は運転者が意識のない状態で発見され、救急隊接触時は全例心肺停止状態であった。ハンドル操作ができた例はなく、ブレーキ操作ができたのは1例(5.0%)であった。運転群では非運転群に比べて有意に目撃の頻度が高く(50% vs 13%、p=0.03)、発生から発見までの時間も短かった。発生から救急搬送までの時間も、運転群で短かった。体調起因性事故では、運転者が疾病により重篤な状態に陥ることがあり、事故の程度にかかわらず、運転者が急変した際の迅速な救助が求められる。自動車運転中の心原性心肺停止例では、発生直後にバイスタンダーによる救命措置が積極的に行われれば、死者の低減につながると考える。高齢運転者が増えつつあるなかで、運転中に体調変化をきたした運転者自身を救命する対策および体調変化後の事故発生を防ぐ対策の両者が求められると考えられた。本検討結果は、今後の自動車運転者の予後を改善するうえで有用と考える。
  • 國行 浩史
    2021 年 21 巻 1 号 p. 47-55
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2022/10/14
    ジャーナル オープンアクセス
    高齢化社会が進み、ドライバーの高齢化も進んでいる。高齢者をはじめとして何らかの疾病をもちながらも、生活維持、社会復帰のために自動車の運転が必要である。しかし一方で、体調急変が起因する事故は後を絶たない状況にある。事業者による運行前確認などで管理され疾患に対するガイドライン等で許可される疾病状況ならば、支援によって安心して安全に運転できる体制が求められる。そこで本研究では、日本の交通事故統計データを用いて、てんかんや心疾患などに起因する交通事故の現状とその特徴を分析した。さらに、これらの結果から、安心して安全に運転を遂行するために求められる支援技術の方向性を示した。健康起因による死亡事故は10年間で182件、重傷・軽傷事故は2,374件であり、増加傾向であった。交通事故統計上、健康起因事故に関する項目として、てんかん、心臓麻痺および脳血管障害に分類されている。分析した結果、各項目はほぼ同じ割合を占めていた。約95%が一般道で発生し、車両単独事故や追突事故が多い特徴がみられた。ドライバーも事業者も安心して安全に自動車を利用できるためには、運転前、運転中および発症後の3段階それぞれに「安心安全」運転支援が必要であると考える。運転前の健康管理、ストレスの少ない通常走行から、体調不良の予兆を検知、さらに緊急時の対応に分けて安全装備を構築していくことが求められる。
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