抄録
近年のわが国の高齢化に伴い、車椅子ごと車両に乗って移動する機会が増加し、交通事故に占める車椅子利用者の割合は増えると予想される。車椅子で自動車に乗車した人の死亡事故例を収集し、その実態を調査するとともに、重症度低減に向けた対策を検討した。車椅子で乗車中に死亡した人は、1999 ~ 2013 年に滋賀県で行われた法医解剖において1 人、2014 ~2020 年に滋賀県で発生した全死亡事故において3 人であった。当該期間の全交通事故死亡者の0.8%に相当した。全例において、3 点式シートベルトが体の正しい位置に着用されていなかった。次に、某老人保健施設において、車椅子利用者を対象とした通所時のシートベルト着用状況を調査するとともに、シートベルトを手すりの下に通すという推奨される方法での着用を実践した。利用者の多くは肩ベルトを着用しておらず、腰ベルトは、車椅子の手すりの外側を通過していた。手すりの下を通過していても、腰部に密着していなかった。推奨される方法で着用しても、ベルトは腰部に密着せず、その拘束は不十分であった。車椅子で自動車に乗車する際、装着されているシートベルトを推奨される方法で着用しても、体の拘束が不十分であることがわかった。車椅子利用者の安全を確保するために、より効果的なシートベルト装置が望まれる。