抄録
職業運転者が、傷病からの復職に関連して事業者を提訴した裁判例のうち、運転者が提出した医師の診断書と事業者の判断に齟齬が生じていた近年の判例を調査し、復職可否の判断における診断書の意義・問題点・司法判断について検討した。
対象例は10 例で、運転者はすべて男性であった。業種は、タクシー・トラック運転者が各3 例、バス・トレーラー・クレーン車・フォークリフト運転者が各1 例であった。休業・休職の原因となった傷病は、脳血管障害・慢性疾患・腰痛・頸部外傷が各2 例、心疾患・がん・薬の影響が各1 例であった(重複あり)。
公判において、地位が認められた(解雇無効)のは2 例、認められなかった(解雇有効)のは6 例で、運転者に対する賃金の支払いが認められたのは3 例、損害賠償請求が認められたのは2 例であった。
運転者が提出した診断書に対して事業者が復職を認めないと判断した理由は、①完治と診断されていない、②診断書の記載が信用できない、③復職が可能でも就労により運転者の健康状態が悪化するおそれがある、の3 つに大別された。いずれの場合においても、主治医の診断書に不明瞭な点や疑義が生じる点がある場合、主治医への確認や産業医の意見を求めることが重要と考えられた。原則として復職の可否は、「従前の職務を通常程度に行える健康状態か」という点から判断される。復職を申し出た時点での健康状態は重要であるが、近年は、直ちに原職復帰できなくても将来的に復帰は可能か、将来的に継続して従来の職務に従事できるかという将来的な見込みも、復職可否の判断にあたってたいへん重要と考えられた。診断書を作成する主治医と復職の可否を判断する事業者のためにも、職業運転者の復職に係る医学的判断の指標の策定が強く望まれる。