抄録 超高齢社会となり訪問歯科診療を必要とする患者はますます増えてきている. しかし, 訪問歯科診療を実施している歯科診療所の数は少なく, 社会の要求に対応できていない現状がある. すなわち訪問歯科診療を実施あるいは指導できる歯科医師の育成が教育機関の急務となっている. また, 卒業直後の歯科医師臨床研修は一般歯科診療の診療技術の修得が目的で, 訪問歯科診療に関する研修項目は見学程度であり, 臨床研修を修了しても訪問歯科診療に関する知識も治療技術も修得できていない. 本研究は, 日本大学松戸歯学部付属病院の協力型施設のなかでも訪問研修を標榜している研修施設に対して, 訪問歯科診療の実施状況と研修歯科医の研修状況についてのアンケート調査を行い, 臨床研修プログラムの改善点について検討した.
その結果, 訪問歯科診療の実施回数が多い研修施設ほど多種の介護施設で訪問診療を実施していた. また, 研修医は訪問先では歯科治療を実施していなかった. 原因として, 多くの研修指導医が訪問歯科診療は経験の浅い研修歯科医には実施不可能であると考えており, 研修歯科医の訪問歯科診療への参加については消極的であった. しかし大半の研修指導医が社会的ニーズを感じており, 臨床研修プログラムにおける訪問歯科診療に関するプログラムは増やすべきとも考えていた. 今後, 臨床研修医が積極的に訪問歯科診療に参加できるように研修プログラムを改善するとともに, 指導歯科医の研修歯科医に対する意識の改革を進めるべきと考えられた.