2020 年 36 巻 3 号 p. 150-160
抄録 広島大学病院口腔健康科 (旧予防歯科) は, 予防処置を主な業務とし, 歯科技工を伴う保存・補綴処置は行わない診療科である. しかし, 広島大学歯学部口腔健康科学科の依頼を受け, 2010年度より口腔健康科学科口腔工学専攻 (歯科技工士を養成するコース) における臨床教育の一端を担っている. 現在当科では, 口腔工学専攻の学生に対して, 以下に示すような臨床教育を行っている.
①診療の用意や後片付け, 口腔に触れない範囲の診療補助.
②患者の歯式の確認, 口腔内に装着された補綴物の判別.
③義歯の構造を覚え口頭で伝えること, 加えて, 伝え聞いた内容の義歯を描くこと.
④装具を用いた高齢者体験.
⑤相互の刷掃実習等.
その結果, 当初は不可能であった口腔内に装着された補綴物の判別や義歯の基本的構造の理解が, 修了時には可能となり, 臨床教育は歯型彫刻や補綴物作製の総まとめとなった. 患者と触れ合い, 歯科医師や歯科衛生士の行う処置に能動的に参加することにより, 患者や他職種の理解を深めることができた. また, 学生に歯学部に入学したという自覚が芽生えた.