2023 年 39 巻 3 号 p. 161-165
抄録 歯学教育において,対話型鑑賞(Visual Thinking Strategies:VTS)を応用した報告はほとんどない.そこで,VTS導入の可能性を検討するためパイロット研究を行った.VTS参加者は,臨床実習生5名,研修歯科医2名である.VTSは,教員のファシリテーションにて3回実施した.プレ・ポストテストでは口腔内写真,口内法エックス線写真の所見の列挙を指示した.また,終了時には,自由記載を含めたアンケートを実施した.プレ・ポストテストでは,若干の記述の増加がみられた.終了時アンケートでは,参加者はVTSは観察力,他者の意見を理解する分析的思考,多様性を受け入れる等の向上に貢献すると感じていた.また,正答/誤答という枠組みに縛られず発言できることへの安心感,自由なものの見方による視野の広がりを感じていた.VTSは正解を求めるものではないため,感じ方,見方等の共有が行いやすく,歯学教育における共感力等の育成に寄与する可能性を有すると考えられる.しかし,VTSのファシリテートは,定型のフォーマットのみでは困難である.VTSは,歯学教育において有用なツールとなると考えられるが,その導入にあたっては,ファシリテータの育成も不可欠である.