日本歯科医学教育学会雑誌
Online ISSN : 2433-1651
Print ISSN : 0914-5133
39 巻, 3 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
第42回日本歯科医学教育学会学術大会
<特別講演1>
<特別講演2>
<特別講演3>
<シンポジウム1>
<シンポジウム2>
原著
  • 音琴 淳一, 伊能 利之, 大木 絵美, 髙谷 達夫, 内田 啓一, 森 啓
    2023 年 39 巻 3 号 p. 121-132
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー

    抄録 現在,歯科医学教育では診療参加型臨床実習が求められており,その準備として臨床実習前の演習が不可欠である.松本歯科大学では,第4学年後期に臨床予備演習の一部として医療面接演習(4回:90分×8コマ)を行っている.著者らはロールプレイと客観的臨床能力試験を組み合わせた実習を行っており,学生のスキル変化の検証を行ってきた一方,本学は中華圏の留学生が多く,臨床で支障のない医療コミュニケーションスキルの修得が望まれてきた.

     今回は本学で行っている2008~2012年度(第一期)に行った医療面接演習と,2013~2017年度(第二期)に第一期の演習の改変を行った医療面接演習を,延べ184名の留学生を対象として,医療面接評価項目の未修得項目と聴取時の記録内容とその量的分析を行い,留学生と日本人学生との比較を行った.その結果,留学生は,演習第一期では本邦学生と同等の実施ができなかったが,第二期では本邦学生と同等の修得結果が得られた.また聴取記録量が増加していたが,演習期間では共感的態度や聴取内容の要約が困難であった.

     今回の調査の結果,留学生は臨床実習前の医療面接演習第一期には聴取できなかった項目が多かったが,ロールプレイ演習方法の変更によって実施できなかった項目が減少し,聴取時の記録量が増加していたことから,留学生の医療面接の技能修得は向上したことがわかった.

  • 石黒 一美, 五十嵐 勝, 添野 雄一, 田谷 雄二, 豊田 健介, 前野 雅彦, 岩田 洋, 森永 康平, 河合 泰輔
    2023 年 39 巻 3 号 p. 133-146
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー

    抄録 対話型鑑賞は鑑賞者同士が会話をしながら実施する美術鑑賞法であり,諸外国の医療者教育に取り入れられている.われわれは,基礎歯学,臨床歯学科目が本格的に開始する第2学年の歯学生に対し,対話型鑑賞を取り入れた本学独自の教育プログラムを実施した.本研究の目的は,この新たな教育プログラムによる歯科医療者としての教育効果を検証し,実践していくうえでの問題点を明らかにすることである.

     今回の教育プログラムは合計3ユニットからなり,ユニット1とユニット2は対話型鑑賞を行うグループと,対話型鑑賞者をピア評価するグループに分かれて実施した.ユニット3は全員で対話型鑑賞を行い,対話型鑑賞が歯科医師として将来どのように役立つかレポート課題で考察させた.

     学生は,将来歯科医師としての診察,診断,治療計画の立案,そして患者との信頼関係の確立やチーム医療における医療者間の連携に必要とされる観察力,思考力,コミュニケーション力を対話型鑑賞から主体的に修得することが明らかとなった.また,ピア評価を取り入れることにより,多人数で同時に実施することが可能となり,観察力や傾聴力をより向上させることが考えられた.一方,絵画から自由に物語を想像する力は,非言語的要素から患者の気持ちを汲み取ることや患者の背景を考えるうえでも必要であると考える反面,低学年ではEBM(evidence based medicine)とNBM(narrative based medicine)の明確な区別が難しいことが示唆された.

調査報告
  • 元根 正晴, 橋本 正則, 錦織 良, 山中 武志
    2023 年 39 巻 3 号 p. 147-151
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー

    抄録 2021年度1年間において,大阪歯科大学医療保健学部保健室を受診した学生(外国人留学生延べ13名および日本人学生延べ78名)の受診理由と背景因子(年齢,性別,Body Mass Index(BMI))との関連を統計的に解析した.保健室受診学生および全在籍学生ともに,外国人留学生のほうが日本人学生よりも有意に男性比率が高かったが,年齢およびBMIには有意差を認めなかった.受診理由疾患としては,日本人学生では,メンタル不調,起立性低血圧,脱水症,感染症の順に多かった.一方,外国人留学生は,外傷と感染症が多かった.背景因子の影響として,日本人男性に外傷が多く,日本人女性に起立性低血圧が多くみられた.一方,外国人留学生に多くみられた外傷や感染症では,男女差は認めなかった.外国人留学生と日本人学生とで,男女比,感染症有病者率およびメンタル不調有病者率が独立して有意に異なっていた.すなわち感染症有病者率は,外国人留学生において有意に高く,メンタル不調有病者率は,日本人学生において有意に高かった.外国人留学生の感染症予防策に関する知識不足やメンタル不調に対する相談の躊躇などがこの結果の原因であると考えられた.将来的には,感染症に関する知識不足やメンタル不調に対する受診の躊躇などを改善する方策を検討することが望まれる.

新しい取り組み
  • 杉本 浩司, 鎌田 幸治, 野上 朋幸, 多田 浩晃, 角 忠輝, 鵜飼 孝
    2023 年 39 巻 3 号 p. 152-160
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー

    抄録 厚生労働省が定める歯科医師臨床研修の到達目標にもあるように,研修歯科医には口腔内だけでなく全身にも目を向けた全人的医療が求められている.2020年度より長崎大学病院口腔管理センターの研修歯科医が治療を担当する患者に対して,毎回の診療時に血圧測定を行う取り組みを行っている.そこで,2022年度歯科医師臨床研修プログラムにて長崎大学病院で1年間歯科医師臨床研修を行った24名の研修歯科医を対象として,毎診療時の血圧測定が研修歯科医に与える影響を検討するためにアンケート調査を行った.

     その結果,毎診療での血圧測定に必要性を感じ,診療に役立ったとした研修歯科医は9割を超えた.また,血圧測定をすることで高血圧症への理解が深まり,診療当日の血圧や全身状態ならび既往歴を意識して診療するようになったことが明らかとなった.さらに学部学生時代は医科歯科連携の重要性を理解していた者の割合は4割にとどまっていたが,毎診療時の血圧測定を通して医科との連携の必要性を感じた研修歯科医は9割以上となっており,医科歯科連携への意識の変化が認められた.

     今回のアンケート調査により,毎診療時の血圧測定が研修歯科医の全身状態を意識した患者管理や医科歯科連携の必要性の認識に対してよい変化をもたらしたことが示唆された.

  • 仲谷 寛, 大澤 銀子, 永浦 まどか, 岩田 洋
    2023 年 39 巻 3 号 p. 161-165
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー

    抄録 歯学教育において,対話型鑑賞(Visual Thinking Strategies:VTS)を応用した報告はほとんどない.そこで,VTS導入の可能性を検討するためパイロット研究を行った.VTS参加者は,臨床実習生5名,研修歯科医2名である.VTSは,教員のファシリテーションにて3回実施した.プレ・ポストテストでは口腔内写真,口内法エックス線写真の所見の列挙を指示した.また,終了時には,自由記載を含めたアンケートを実施した.プレ・ポストテストでは,若干の記述の増加がみられた.終了時アンケートでは,参加者はVTSは観察力,他者の意見を理解する分析的思考,多様性を受け入れる等の向上に貢献すると感じていた.また,正答/誤答という枠組みに縛られず発言できることへの安心感,自由なものの見方による視野の広がりを感じていた.VTSは正解を求めるものではないため,感じ方,見方等の共有が行いやすく,歯学教育における共感力等の育成に寄与する可能性を有すると考えられる.しかし,VTSのファシリテートは,定型のフォーマットのみでは困難である.VTSは,歯学教育において有用なツールとなると考えられるが,その導入にあたっては,ファシリテータの育成も不可欠である.

  • 大澤 銀子, 永浦 まどか, 岩田 洋, 仲谷 寛
    2023 年 39 巻 3 号 p. 166-173
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー

    抄録 近年,学習者の臨床能力を開発するために,ビジュアルアートを用いた対話型鑑賞(Visual Thinking Strategies:VTS)が注目を集めている.本学においてもVTSを応用するために,ファシリテータ養成を目的としたワークショップを開催した.その概要について報告する.

     ワークショップの参加者は,日本歯科大学生命歯学部および日本歯科大学附属病院所属の教員20名である.ワークショップでは,VTSの概要解説,スモールグループによるVTSのファシリテータの体験や振り返りなどを行った.最後にアンケートを実施し,自由記載内容については,内容分析を行った.

     アンケートの結果,VTSが学生の学びに貢献しそうな項目として,「観察力」「他者の意見を理解する」「分析的思考」や「多様性を受け入れる」が多く選択された.内容分析の結果,3つのサブグラフが抽出され,それぞれを「VTSへの期待」「視点の多様性」「ファシリテートの理解と不安」とした.

     本ワークショップを開催した結果,VTSのファシリテートにはまだ不安を抱く参加者が多く認められたものの,プロフェッショナリズム涵養における教育効果に対しては多くの参加者が自覚していた.今後,VTSを歯学教育に導入していくためにも,ワークショップ内容を改善し,継続してVTSファシリテータの養成を行う必要があると考える.

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