抄録 診療参加型臨床実習を充実させるためには,臨床実習前の基本的臨床技能の教育を整備することが重要である.ミラーテクニック(MT)は,目視が難しい部位の処置の際に有効な技能であり,Minimal Intervention(MI)を実践するうえでも重要であるが,その習得は容易ではないため,MTの教育方法の確立が求められる.本研究では,研修歯科医のデンタルミラー(DM)の近遠心位置関係の違いによるう蝕を想定した試験円の削除の正確性に与える影響を調査した.
被験者は令和5年度新潟大学医歯学総合病院研修歯科医23名とし,上顎右側中切歯の人工歯口蓋側に規格化した試験円をMT下でMIに基づき過不足なく削除することを指示した.被験者は糸で固定した近遠心的に設定した3種類のミラー位置で,練習の後それぞれ1回ずつ切削試技を行った.切削後の人工歯のデジタル画像とSTLデータを用いて切削範囲,切削深度に加え,切削時間と窩洞の確認回数を測定し比較検討を行った.
過剰切削範囲,切削時間は,遠心寄りのミラー位置でほかのミラー位置より大きかった.また遠心寄りのミラー位置では切削位置により切削深度のばらつきがみられ,安定性を欠いていた.これは遠心寄りのミラー位置がほかのミラー位置に比べて切削対象が見づらかったためと思われた.以上より,MTを用いた上顎右側中切歯のう蝕を想定した試験円の削除において,DMの位置が切削の正確性に影響を与えることが示唆された.