抄録 一般歯科治療は狭小な口腔内を覗いて行うため,直視できない場面で用いるミラーテクニック(MT)は欠かすことのできない基本的臨床技能の一つである.しかしながら学修者にとってMTの技能習得は容易ではないため,著者らは臨床経験の浅い歯科医師に対する効果的なMTの教育方法の開発を目指し,MT下でのう蝕の切削について第1報,第2報として報告した.前報では研修歯科医(TD)を対象としたが,本稿では彼らを指導する指導歯科医(ID)に対して第1報と同じ実験を行い,IDと学習者であるTDを比較することで切削の正確性に関する熟練度について検討した.
実験条件は,第1報に準じ,評価パラメータを過剰切削範囲,最大切削深度,平均切削深度,確認回数,切削時間とし,ID,TD間で切縁側,歯頸側,近遠心の4エリアごと,ミラー位置ごとで比較を行った.
結果として,過剰切削範囲,最大切削深度,平均切削深度いずれもIDがTDに対して切削技能の優位性を示し,確認回数はIDのほうが多いことから,より慎重に切削していたことが示唆された.
MTを用いた上顎右側中切歯のう蝕を想定した試験円の削除について,デンタルミラー(DM)の位置は切削の正確性に影響を与えるが,臨床経験によりMTの熟練度は変化し,MT技能の上達によりDMや切削器具の位置に関する不具合をある程度補正することが明らかになった.