口腔衛生学会雑誌
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原著
妊産婦の口腔環境変化に関する疫学的研究
松本 勝
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1997 年 47 巻 1 号 p. 51-60

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抄録

母子歯科保健の一環として実施されている妊産婦歯科保健活動をより効果的に展開するための基礎的研究を行った。妊娠期間中と出産後に健診を実施した初妊婦38名を対象として,コホート研究を行い,時系列的に口腔内環境の評価を行った。その結果,1)妊産婦の口腔環境は,出産後の状況に比較して,妊娠期間中では悪化する傾向を示した。2)PMA indexと咀嚼時混合唾液緩衝能においては,妊娠期間中と出産後の間に有意な差がみられた。3)妊娠期間中に唾液pHの低下がみられた被験者の口腔環境は,変動しやすく悪化する傾向がみられた。妊娠期間中の口腔環境の変化として,う蝕の発生に抑制的な働きをする唾液の機能低下がみられた。また,妊娠期間中に唾液pHの低下がみられる者では,う蝕に対する感受性が高まり,歯肉の炎症も顕著に発現し,出産後に有意に改善する傾向が強くなることも示された。以上の結果から,妊産婦の歯科保健指導を行うにあたって,診査項目の1つとして妊娠中に唾液pH測定を行うことは,妊婦の口腔環境を判別し,う蝕や歯周疾患の予防に対しての有効な保健指導を実施する手段として有用であると推察された。

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© 1997 一般社団法人 口腔衛生学会
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