歯周疾患や齲蝕により,オーバーデンチャーの維持歯は抜歯にいたるケースが多い。維持歯の形態によってはブラッシングしにくいことがあるため,本研究ではブラッシングしやすさとその形態との関連について検討した。シミュレータは歯ブラシの毛束の長軸方向,およびその直角方向の力を測定する装置1,および維持歯(歯模型)の長軸方向およびその直角方向の力を測定する装置2からなる。測定装置の基本構造はストレン・ゲージを貼った片もち梁である。装置2では歯模型を交換でき,歯模型は0.5,1.0,1.5および2.0mmの高さのものそれぞれに0°,10°,20°,30°,および40°の傾斜をつけた20種からなる。実験1では一定荷重をかけた機械的装置を用い,実験2では10人の被験者(22〜45歳,平均34歳)にブラッシングさせ実験を行った。刷掃しやすさの評価は実験1および実験2から歯模型の高さが増加するほど,また側面の傾斜が少ないほど加わる力は増加した(実験2,p<0.05)。実験結果から,維持歯の高さは少なくとも1.5 mm以上で,歯肉付近の立ち上がりが直角かそれに近いほうがブラッシングしやすいことが示唆された。